短編1
□las hojas
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いつものように所長室のドアを開ければ、そこにはマンサムと、リッキーと、そして知らない男性がそこにいた
面識のない人物との接触に、カイリの体が途端に強張る。
「お!来たか!」
振り返ったマンサムは頬を赤く染め、(いつものように)すっかり出来上がっている。
「ホワイトアップルのシードルにバナナキュウリか、中々良いな。お、ライチーズも合わせてきたか、流石だぞカイリ!」
上機嫌なマンサムと男性の前に持ってきた物を並べ、そのままペコリと会釈をして退室しようとしたカイリだったが、くるりと踵を返したところでマンサムに呼び止められてしまう。
「あぁ、待て待てカイリ」
「…?」
無言で振り返り首を傾げたカイリに、マンサムは爆弾発言を投下した。
「今日はお前達の顔合わせが目的だ。紹介しよう、彼が四天王ココだ。ココ!この子がカイリ、さっき説明したお前の後輩だ」
「えぇっ!?」
思わずカイリは大きな声を出してしまい、慌てて持っていたお盆で口元を隠す。
その動作に、マンサムの豪快な笑い声が室内に響き渡った。
「ばっはっは!ビックリしたか!」
「あのっ、その…」
カイリはもう息も出来ないといった様子でただお盆に隠した口をパクパクさせる。
だって、ついさっきまで彼の事を考えていたのだ。
彼のサクセスストーリーに思いを馳せて、幸せのお裾分けをもらっていたのだ。
どんな人か、とか、会ってみたい、なんて、そんなおこがましい事、これっぽっちも考えた事なかったのに…
チラリと、マンサムの前に座る彼を見る。
マンサムも筋骨隆々とした大男だが、どうやら彼もかなり長身のようだ。
頭には緑色のターバンが巻かれ、大きなマントから見え隠れする黒い服はその肉体美を表面に写し出して、まるでいつか図鑑で見た彫刻のように美しい
そして
「―!」
カイリは口元のお盆を更に上に移動させ、顔全体を隠してしまう。
彼と、眼が合ってしまった
その瞬間、カイリの身体中の血液が沸騰し始める。
(こんな、どうして?私、熱い…)
ふ、と向けられた彼の目線が真っ直ぐにカイリを射抜いた。
たったそれだけだ。それなのに…
教養もない、常識もない、こんな自分がどうしてそう思えるのか分からない。
それでも、柔らかい色合いの瞳と、2つの宝石のようなその輝きに彩られた彼の容姿を、本当に美しいと思ってしまったのだ。
(美しいって、こういう事、なんだ)
誰に教えられる訳でもなく、否定しようとしても押さえられない、圧倒的な存在感に心動かされる、この気持ち
やっと分かった
カイリは1人納得する。
間違いない、きっとこれが『カリスマ』だ
浅い呼吸を繰り返しながら、徐々に後退を始めたカイリは、遂に部屋の壁に背中をぶつけてしまい、そこでようやく動きを止める。
隣にやって来た彼女を見上げて、リッキーは小さく喉を鳴らした。
「―それで、突然ボクを呼び出したのは彼女を紹介する為ですか?」
やたらニヤニヤしている所長と、お盆で顔を隠したまま部屋の隅に行ってしまった少女に若干呆れた顔をして見せながら、ココは短く質問する。
初めて聞く、少し低めの、それでいて甘い響きの彼の声色に、カイリはとうとうクラクラし始めた。
「もちろん、それだけじゃないぞ!」
事情を何も知らない2人をニヤニヤと眺めながらマンサムはワインボトルに吸い付く。
まるで吸引するように中身を飲み干し、ぷは〜!と一呼吸入れてから、目の前のツマミに手を伸ばした、その仕草のついでといった雰囲気で、マンサムは本日2度目の爆弾発言を炸裂させた。
「いきなりだが、しばらく彼女の面倒を見て欲しい」
「ボクが!?」
「えぇえっ!?」
その瞬間、2つの異なる声色が、しかし同様に驚愕の色を前面に押し出しながら、所長室内にこだました。