* change of heart *

□17話 紅蓮の蝶
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家屋の中へ入ると和を基調とした家具や雑貨が揃っていた。
しかし、所々にその雰囲気に似つかわしくない最新の機器も置いてある。
簡単に家の中の案内が終わり、最後にとある部屋に通された。

「今日からお主が寝泊まりする部屋だ」

「こんなに良い部屋でいいんですか!?」

私の部屋の三倍以上はある広い和室。
更に縁側があり、その先にはコチョウさんが手入れしたという庭園が一望できた。

「構わぬ」

「ここでカエデちゃんが寝るんですね!!」

「コチョウは立ち入り禁止だがな」

「なにゆえ!?」

「お前に襲われかねないからな」

「襲いませんよ! 愛でるだけですー!!」

「ならば尚更駄目だ」

「なんとっ!?」


二人のやりとりに私は思わず吹き出してしまう。

「ふふっ。仲が良いんですね」

「へへー。照れますね。あなた」

「まぁ、悪くはないからな」

コチョウさんはともかく、キュラスさんも満更ではないらしい。
本当に仲が良くて、羨ましいと思う。
いつか、私も……。
ううん。あまり高望みしちゃいけないよね。
そんな考え事をしているとキュラスが私に向き直って訊ねた。

「さて、お主はどうする?
昨日はこの街もゆっくりと見れなかっただろう。観光でもするか?」

私の欲望がちらりと顔を出す。
観光も行きたいし、買い物もしたいし、美容にも良いとされるヒスイ温泉にも浸かってみたい。
素敵な提案だけれど、でも私にはやらなくてはならないことがある。

「折角の提案なんですけど、すみません。
バトルの特訓、お願いしたいです!」

それを聞いたキュラスさんは一度思案すると、一拍置いて返答した。

「そうか。わかった。
コチョウも一緒に来て欲しい」

キュラスさんの言葉にコチョウさんは目を輝かせる。

「バトルしていいの!?」

「ああ。だが無理はするなよ」

「やったぁあーーっ!!」

「えっ。でも……!」

キュラスさんがバトルを教えてくれるのではないのか。
そんな私の心配とは裏腹にキュラスさんは話を続ける。

「心配はいらない。コチョウは強いからな。
それに今のお主は非常に危うい」

「危うい……?」

首を傾げる私の問いに、キュラスさんは答えずに背を向けてしまう。

「さぁ、ジムに戻るぞ」

「はぁーい!
あ、着替えるからちょっと待っててー!」

元気よく返事をしたコチョウさんは突然、私の袖の裾を掴んだ。

「えっ」

「カエデちゃんもおいでー!」

ハッとしてキュラスさんに目で助けを求める。
振り返ったキュラスさんと視線が合うが直ぐに目を逸らされてしまった。

「ほどほどにな、コチョウ」

「えっ……そんな」

絶望を孕んだ私の声はコチョウさんの耳に届くことなく、空虚に消える。
そのまま私はコチョウさんの自室へと引きずり込まれてしまった。





一時間ほどしてから、やっとの思いで部屋から出られた。
彼女の部屋では服を取っ替え引っ替えされた。まるで着せ替え人形のように。

一仕事を終えたコチョウさんは嬉々として歩く。
ぐったりとした私の隣で。

「へへーん! カエデちゃんとお揃いです!」

「あははは……」

私の服はコチョウさんと同じ鮮やかな茜色に染め上げられ、紅白と桃色の小さな花を散りばめられた着物だ。
同じ着物なのに着慣れているコチョウさんの方がとても素敵で隣にいる私は見劣りしてしまう。
だが綺麗な振り袖を着れたのは正直嬉しい。

「終わったか?」

キュラスさんが居間で座ってお茶を飲みながら待ってくれていた。

「お待たせ!」

「すみません。お待たせしました」

「いや。女性の支度に時間がかかるのは仕方のないことだ。
では、行こうか」

キュラスさんが立ち上がり、近くにあった番傘を手に取ると私たちを連れてこの家を後にした。

 
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