* change of heart *

□16話 最強のジムリーダー
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「あ、兄貴……」

「どうした? 呆けた顔をして」

キュラスさんが首を小さく傾げ、不敵に笑う。
シランさんは引きつった笑顔をキュラスさんに向けた。

「いや、あの元気?」

「ああ。シランも元気そうで何よりだな」

「う、うん」

何故かシランさんが怯えている。
その様子を見ているとキュラスさんは私の方を一瞥した。

「ほう……。この娘がカエデか。
こんな少女を戦いに出すつもりか?」

「それがカエデちゃんの願いだから」

真摯にキュラスさんに訴えるシランさん。
しかしキュラスさんはため息混じりに溢す。

「その結果、この娘が大怪我でもしたらどうするのだ?
顔に傷、後遺症、ましてや命を落とすことだってありえるのだぞ?」

「うっ、それは……」

「子供を守るのが大人の責務であろう。
悪いが、修行の件は―――」

「ち、ちょっと待ってください!」

気づいたら私は声をあげていた。
私が望んだことなのに、シランさんが責められる必要はない。
拳を強く握り締め、大きく息を吸う。

「私が、強くなりたいんですっ!!
誰かを守れる強さが!!
だから私に戦い方を教えてください!
お願いします!」

深々と頭を下げる。
返事がない。
しんと静まり返ってしまった。



あぁぁ……、やってしまった。
キュラスさん、どんな顔してるかな。
怒ってるかな? 困ってるかな?
怖くて頭が上げられないよ…。
ぐるぐる回るネガティブな思考の渦に、突然雲のような声が降ってきた。

「……意思は固いようだな」

「それじゃあ……!」

パッと顔を上げる。
キュラスさんは変わらず涼やかな顔をしていた。

「ああ、お主の覚悟は伝わった。
バトルをして、お主の実力を見極めることにしよう」

「……えっ。瞬殺ですよ? 私なんて」

「そうであろうな。しかしその程度だったら諦めることだ」

諦める。そんなこと、出来る筈がない。

「いえ、やらせてください!」

「ああ、無論だ」

キュラスさんは初めて私に笑顔を向けると、バトルフィールドへ足を運んだ。
途中キュラスさんは、先程シランさんと話していた茶髪の男の人を手招きして呼んだ。

「フェンネル。審判を頼む」

フェンネルと呼ばれた男の人はフィールドの中央の端へ向かった。

「こほん。
じゃあ、これからセイランシティ、カエデとヒスイシティジムリーダー、キュラスの試合を始めます!
使用ポケモンは3体。ポケモンの交代は挑戦者のみ許されます。
お互いにポケモンを出してください!」

フェンネルさんが告げる。
キュラスさんは何処からかモンスターボールを出すと放り投げた。

「任せた。サザンドラ」

小さな球体から解き放たれたのは、三つ首に六枚の黒い翼と紺色の大きな身体を持った竜だった。
それは低く唸り声を上げて鋭い赤の眼でこちらを睨んだ。

「っ……! ガーベラ、お願いっ!」

「ウオォォォオン!」

怯みながらも私がボールから出したのはウインディだ。
こちらも唸り声を上げて威嚇する。


「では試合開始!」

フェンネルさんがフラッグを縦に降り下した。

「ガーベラ、同調するよ!」

相手はシューレン地方最強のジムリーダーだ。出し惜しみをする余裕なんてない。
瞳を蒼色に変えて、ガーベラと心を通わす。

「………!」

キュラスさんは一瞬、驚きの表情を浮かべた。
私はその瞬間を逃さず、攻撃の指示をテレパシーで伝える。

『畳み掛けるよ! 『こうそくいどう』から『インファイト』っ!』

目にも留まらない速度でサザンドラの懐に飛び込むと、十数発もの打撃を叩き込んだ。
しかしサザンドラはその猛攻にも耐え、空中に留まる。

「効いてない……の?」

効果は抜群な筈なのに、目に見えるダメージがまるでない。
こんな相手、倒せるのだろうか。


 
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