* change of heart *

□11話 夏の成果
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*カエデside




期待に応えなきゃ、期待に応えなきゃ。
最近そんな考えが頭の中をぐるぐると回っている。
貴重な夏休みという1ヶ月間をツバキくんとフィルちゃんたちは私の為に費やしてくれたから。
この思考が私を緊張させ、落ち着かなくさせている。
うろうろと制服姿でリビングを歩き回る。

「はぁぁぁ、緊張、する……。

……ぺぁっ!?」

「カエデ、少しは落ち着いたら?」

私は急に何も無い平面なところで足を躓かせ盛大にこけた。
そんな私の様子を心配そうに見守るのはお姉ちゃんだ。
私は顔を少し上げて力なく答えた。

「いったぁ……。だ、大丈夫……だよ」

「全然大丈夫そうには見えないけど……」

眉を寄せて不安な表情を見せるお姉ちゃん。
すると突然に聞こえてきた階段を下りてくる音に私は咄嗟に立ち上がった。
その音の主は頬に湿布を貼ったシランさんだった。
数日前に退院してから私たちの家に療養している。

「おはよう。サクラ、カエデちゃん」

「お、おはようごさいます!」

「おはよう、シラン。傷は? まだ痛む?」

「もう大丈夫だよ。サクラは相変わらず心配症だなぁ」

苦笑するシランさんの足取りは未だに覚束なく、手すりを使ってゆっくりと下りてきていた。

「俺よりもカエデちゃんの方が心配なんだけど?」

「あ、えと、私は大丈夫でしゅ!
……です!!」

私の方を見て言ったシランさんの問いかけに噛みながら返答してしまう。
一気に恥ずかしくなった私は顔を俯かせた。

「あははっ、カエデちゃんを見てると面白いね」

「私は面白くないですっ! あ、時間なので私もう行きますね」

時計を見て時間を確認するとスクールバッグとボールホルダーを拾い上げ玄関へと急ぐ。

「頑張ってね、カエデちゃん」

「気をつけて行きなさいね」

「はい! 行ってきます」

シランさんとお姉ちゃんの声に押されて家を出た。









家を出てカフェへ向かうとツバキくんは先に待っていた。

「おはよ、ツバキくん」

「あぁ、おはよう。……顔色悪いけど大丈夫か?」

「あ、うん……ちょっと緊張してて……」

心配してくれたツバキくんはそうか、と一言呟き空を見上げた。
暫くするとツバキくんの朱い瞳が真っ直ぐに私を見据える。

「気楽にやれ。
お前の傍にはいつだってポケモンたちがいただろ?
喜びも悲しみもその緊張も、ポケモンたちと分かち合えばいい」

「………あ」

モンスターボールの中を見る。
フリージアもガーベラもスターチスもカルミアも、みんな真っ直ぐに私を見つめていた。

そうだよね。
私にはみんながいる。
1人では決して適わない相手でも、みんなが協力してくれるから立ち向かえる。
そして私はみんなを傷つけないために頑張ってきたんだ。
私はもう一度ツバキくんに向き直った。

「ツバキくん、ありがとう!」

私はこのとき心の底から笑えた気がした。
 
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