* change of heart *

□17話 紅蓮の蝶
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*カエデside




翌日。

私は赤いキャリーケースを引いてヒスイシティを訪れていた。
私の胸の中は期待と不安で一杯だ。
紅葉の敷かれた真っ赤な絨毯を踏み締め、気づけばヒスイジムの目の前。
重く大きな扉を片腕で力一杯押す。


「お、おはようございます」

「カエデちゃん、おはよー!」

「朝早くから関心だな」


出迎えてくれたフェンネルさんとキュラスさん。


「あ、あの! きょ、今日からよろしくお願いします!」

「そんな緊張せずともよい」


キュラスさんはそう言って私に歩み寄る。
緊張で固まる私からキャリーケースを奪いジムの扉を引く。

「……えっ?」

「我が家へ案内しよう」

肩越しに振り返るキュラスさん。
そしてフェンネルさんにも声をかける。

「ジムは任せた」

「了解です!」

ビシッと敬礼をして屈託のない笑顔キュラスさんのそれに応える。
キュラスさんは彼に分からないくらい一瞬だけ頬を緩め、私と共にジムを後にした。




黙々と歩くこと十分。
木造家屋の多い通りの中にキュラスさんの住宅はあった。
黒塗りの瓦屋根に木の温もりを感じる造り、周囲と遜色ない建築物だ。
違うところを挙げるとするならば可愛らしい庭園があることくらい。


「素敵なお庭ですね」

「妻が手入れをしている。当然だ」


相変わらず涼しい顔でそう言うが、何処と無くキュラスさんは嬉しそうだった。
石畳の道を通り終え、キュラスさんは自宅の玄関の引き戸を開ける。


「帰ったぞ、コチョウ」


外からの日射しのみで照らされた廊下。
その奥から慌ただしい足音が近づいてくる。
音はどんどん大きくなっていき、赤色の何かが玄関から飛び出す。


「おかえりなさぁーーいっ!!」

「うっ……!」


足音の主がキュラスさんに抱きついた。
否、ギガインパクトをかました。



─────────
──────
───


「改めて紹介しよう。妻のコチョウだ」

「へへー。妻だってー。えへへー」

頬を紅葉の色に染めはにかむ彼女こそキュラスさんの奥さん、コチョウさんだ。
栗色の柔らかそうな長髪にくりくりとした茜色の瞳。
人懐っこい可愛らしい顔立ちの下は女性の私から見ても憧れるスタイルだ。
ただ、服装は赤色のジャージに眼鏡と休日の格好──。

その姿に困惑しつつも私は頭を下げる。


「今日からお世話になります。カエデです。
よろしくお願いします!」

「あなたがカエデちゃんですね!
よろしくお願い致します!」

興奮気味な口調で話しながらペコリと頭を下げるコチョウさん。
そして私のことを頭の先からつま先までまじまじと見つめる。
そのコチョウさんの行動にたじろいでしまう。

「え、えと……。コチョウさん……?」

恐る恐るコチョウさんの顔を覗き込む。
すると子供がイーブイを見つけたかのように目を輝かせていた。

「あーもうー! 可愛いですーーっ!!」

「ふひゃあ!?」

突如、抱きつかれて匂いを嗅がれる。
離れようと試みるもガッチリと私のことを掴んで逃れられない。

「ふあー! 良い匂いですねー!!」

「やぁっ……。恥ずかし………っ」

「やめんか」

「わわっ!!」

コチョウさんの小さな顔をキュラスさんの大きな手が覆う。
そのお陰あって、やっとの思いでコチョウさんから解放された。
私は直ちに後ずさる。

「怖がらせてどうする……」

「うう。ごめんなさい」

頭を垂れるコチョウさんにキュラスがため息をつき、私を一瞥する。


「謝る相手が違うだろう?」

「うっ……。
カエデちゃん。ごめんなさい」

「い、いえ。大丈夫……です」

「じゃあ抱きしめていい!?
くんかくんかしてもいい!?」

「それはちょっと……。ごめんなさい?」

「何故お主が謝る……」


こうして、不思議なキュラスさんの奥さんとの邂逅を果たしたのだった。

 
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