* change of heart *

□16話 最強のジムリーダー
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*カエデside





私はシランさんに連れられヒスイシティに来ていた。
因みに、スクールは校舎が半壊した為に当分は休校になるらしい。

ヒスイシティには観光名所であるヒスイ温泉がある。その源泉は美容に良いと評判で一度は訪れてみたかった場所だ。
建築物は和で統一され、人々は着物を纏っており趣がある町並みだ。
もちろんジムリーダーはキュラスさん。

シランさんと紅葉の並木道を歩いていると、目の前に大きなジムが見えてきた。

「はぁ、緊張するなぁ」

と、シランさんがため息をつく。
そこでずっと気になっていたことを聞いてみた。

「そういえば、シランさんとキュラスさんってどんな関係なんですか?」

「あれ、言ってなかったっけ? キュラスは俺の兄貴なんだよ」

「お兄さん!?」

「うん。そして俺とアスターの師匠でもあるんだ」

「え……?」

一瞬、息が詰まる。
彼の、アスターさんの姿が脳裏に浮かんだ。
その後に襲いかかるのは激しい動悸。
荒い呼吸を繰り返しながら、ぎゅうっと心臓辺りの服を握りしめる。

「はあ、はぁ、はぁっ」

「大丈夫!?」

シランさんが側に寄り、背中をさすってくれる。
自分でも落ち着くように落ち着くようにと、なるべく深呼吸を始める。

「すぅ、はぁー。だ、大丈夫です……」

「ごめんね。不用意に名前を出しちゃって……。まだ心の傷、癒えてないのに」

「いえ……。克服しないと、ダメですから」

自分の足でしっかりと立って呼吸を整える。
シランさんは「ちょっと待ってて」とだけ言うと何処かへ走っていき、言葉通りに直ぐ戻ってきた。

「はい、お水。落ち着くから」

そう言いながら私に『おいしいみず』を手渡す。お礼を述べ、口をつける。
乾いた喉が一瞬で潤った。また一口と、私は水を口に含む。

「本当にごめん。落ち着いたら言って?」

「いえ、お陰様で大丈夫です!」

「そう? でも無理しちゃダメだよ」

「はい!」

シランさんはもう一度だけ私の顔色を窺い、ジムの扉を開けた。
視界に入ってきたのはシンプルなフィールドのみ。
ジム……だよね? それにしては簡易的なような……。

一人で首を捻っていると、近くに居た茶髪の男性のトレーナーが話かけてきた。

「ん、挑戦者? って、シランじゃん!」

「久しぶりだね、フェンネル。兄貴いる?」

「キュラスさんなら奥の部屋にいる。
それにしても懐かしいな!」

「三年ぶり位かな? 俺がここを辞めてから」

「もうそんなに経ったのかぁ。そりゃあ懐かしい訳だ」

茶髪の男の人が親しそうにシランさんの肩を寄せる。
シランさん、ここでジムトレーナーをしてたんだ。
会話も弾んでいて楽しそうだ。
一歩退いてその光景を見ていると、茶髪の男性が私に目をつけた。

「その娘だれ? サクラちゃんと別れたの?」

「そんな訳ないだろ。この子は―――」

と、シランさんが言いかけた。
動きが止まり、青ざめる。
シランさんの目線は私の後ろにあった。
私も凍りつく。
な、なに? 私の後ろに何がいるの?

「久しいな、シラン」

威厳のある声がして振り向いてみる。
艶のある漆黒の長髪は毛先へ向かうにつれて紫に。日を浴びたことのないような白い肌とアメジスト色の切れ長の目。
そして黒を基調の着物を身に纏った、長身で端整な顔立ちの男性がそこにいた。


 
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