* change of heart *

□15話 受け継がれる想い
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*ツバキside



青々とした空の下、のどかな草原が延々と広がっている。
その緑の海にぽつんと浮かぶ小さなログハウス。
奥にはのんびりとした景色に似つかわしくない林や岩場、水辺など様々な地形を柵が囲んでいる。
柵の中には多用多種のポケモンたちが放し飼いにされていた。


変わらないな、ここは――――。
心の中で独り言のように呟く。
隣に居たフィルも同じことを思ったのか、懐かしそうに顔を綻ばせた。

「はぁ。胃が痛い」

こんなに緩い風景なのに心が晴れないのは今から会う人物が大きく影響しているからだろう。

オレの母、サザンカの両親。
この家は祖父母の家である。

以前に訪れた時は心配され、激怒され、最終的には祖父に鍛えられるという謎の歓迎をされた。
その為か、オレは祖父が苦手なイメージが強い。

ログハウスの扉を開けるのを躊躇っていると、地響きがこちらにずんずんと迫ってきた。
その音の主の姿を認識した瞬間、オレの身体に衝撃が走り、押し倒された。

「ニドーっ!」

「ラン!」

「うおっ。クイン。クル。久しぶりだな」

突っ込んだ来た正体は母さんのポケモンのニドクインとランクルスだった。
母さんが殺され、精神的にも肉体的にも傷ついた二匹。
その時から祖父母の家に預かってもらっているのだ。

オレの上に乗っかっている二匹を撫でていると突然声が降ってきた。

「全く、騒々しい奴じゃのう」

「げ」

「実の祖父に向かって『げ』とはなんじゃ」

ニドクインの後ろには眉間に皺を寄せた白髪で厳つい老人の顔が目に入った。

「ひ、久しぶり。じいちゃん」

「珍しく帰ってきたと思ったら、何か訳ありのようじゃのう? ツバキ」

鋭い眼光がオレを怯ませる。
負けじとこちらも本題を話し出す。

「う……。
オレにさ、あの奥義を教えて欲しいんだ」

「ほう……。何があった話しなさい。
教えるか教えないかはその後じゃ」

「……はい」

じいちゃんに連れられ家の中へ入る。
室内に使われている家具も木造で、柔らかい雰囲気を与えてくれる。

「あら? ツバキじゃないの。久しぶりねぇ」

キッチンの奥からエプロンをかけた老婆がせかせかと歩いてきた。

「久しぶり、ばあちゃん。元気そうで良かった」

「ツバキも元気そうで何よりだねぇ。
でもたまには顔を出しなさいね?
私もお父さんも心配してるんだから」

「儂は心配などしておらん」

「はいはい。今からお昼の用意するから座ってて頂戴ね」

「うん、ありがとう」

ばあちゃんは適当にじいちゃんをあしらいながらキッチンへと戻っていく。
オレとじいちゃんは言われる通りに椅子に座った。


ご飯が出来るまでじいちゃんに今まで何があったのかを大雑把に話した。

倒したい敵がいること。
守りたい人たちがいること。
今の自分では力不足だということ。

じいちゃんは腕を組ながらずっと黙って聞いてくれた。
オレが話し終えるとじいちゃんは固く結んでいた口を開いた。

「期限は何時までじゃ?」

「次の皆既月食。………来年の二月までに」

「あと五ヶ月か。
……よかろう。覚悟するんじゃな」

「! いいのか!?」

「ああ。
但しその戦いが終わったら必ず家に来なさい。
彼女さんと一緒にな」

「わかった。
…………は!? なんでそれ、知って……!」

「フィルがテレパシーでお前さんの分かりにくい説明に捕捉してくれたんじゃよ」

「なっ! おい、フィル!」

「かっかっかっ! フィルはお前さんのこと良くわかっているからのう。
良いパートナーじゃないか。大切にしなさい」

「言われなくても大切にしてるし大切にされてるよ」

じいちゃんから目線を外し頬を掻く。
すると楽しそうな笑い声と共にばあちゃんが昼食を運んできた。

「あらあら、ツバキに彼女がねぇ」

「あ、言ってくれれば手伝うのに」

「そう? じゃあキッチンにまだシチューがあるから運んでもらえる?」

「うん」

簡単な手伝いを終え、三人とも席についた。

「じゃあ、頂きます」

ばあちゃんの作ってくれた温かいシチューはなんだか懐かしい味がした。
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