* change of heart *
□12話 噛み合う歯車
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*カエデside
再編成試験の翌日。
スクールは休日で私はミズキと話し合う約束をしていた。
ミズキは人気のないバトルフィールドを集合場所に指定したので私はそこへ向かった。
待ち合わせ時間よりも早く着いたはずなのにミズキは既にそこに居た。
「おはよう、ミズキ」
「ああ、カエデ。おはよう」
やはり周りには他の人の姿はなかった。
近くにあったベンチに二人で腰かける。
ミズキは私に向けて柔らかく微笑んだ。
「昨日は本当におめでとう。
観てて凄く努力したのが伝わってきたよ」
「ふふっ、ありがと!」
「バトルの最後に使ったあの技って『フレアドライブ』じゃなくて『ニトロチャージ』と『しんそく』だよね?」
「あ、分かった?」
「何となくね」
ミズキの言う通り『ニトロチャージ』で素早さを上げ、あの異常な『ブレイブバード』のスピードを上回らせたのだ。
もちろん『フレアドライブ』と言ったのはフェイクだ。
でもミズキが話したいことは違う筈だ。
単刀直入に聞いてみる。
「ミズキの話って何か聞いてもいい?」
「あぁうん、そうだよね」
ミズキは目を閉じて深呼吸を一つすると再び私に向き直った。
「あたしの兄貴がsecondクラスの短期の先生ってのは知ってるよね?」
「うん。噂で聞いたよ」
「じゃあツバキとグレイの関係は?」
「色々噂が飛び交ってるけど……よく分からない」
「何も聞いてないの?」
「……うん」
ツバキくんに関しての噂は多い。
グレイさんとミズキのお兄さん、リンネさんの仲間だったり。
グレイさんたちの敵だったり。
正直なところ、ツバキくんとグレイさんが衝突したときは自分のことで精一杯でよく覚えてなかったりする。
「前にさツバキのこと嫌いだって言ったこと、いつか話すって言ったこと、覚えてる?」
「うん、覚えてる」
あれは雨の日の帰り道だった気がする。
確か先入観で嫌い、とか言ってた。
「やっぱりあれ、無し」
そう言いながらミズキは腕を胸の前で交差させてバツをつくる。
「えっ!?」
「そういうのは本人から聞いた方がいいと思う」
本人、と言うことはツバキくんに聞かなくてはならない。
ミズキの言う通りなんだけど、物凄く聞きづらい内容である。
「それにね、あのバトルを見てカエデを任せてもいいかもなって思ったんだ」
「ま、任せるって!」
私は恥ずかしくなって声を荒げてしまう。
しかしミズキはそんな私に構うことなく唇を尖らせムッとした表情で話し続けた。
「だってカエデのバトル、アイツに似てんだもん。ほんっとに、嫉妬するくらい」
「そうかな?」
私のとツバキくんのバトルとでは大分差がある。
首を捻っているとミズキはふてくされていた。
「似てるんだよ……嫌なくらいにさ。
あまり他人に戦術とか教えると自分が不利になるから教えないんだよ。本当はね」
「そ、そっか……」
そんなに大切なことだったとは思わなかった。
ますますツバキくんに感謝しなきゃ。
ミズキがチラリと腕時計を見る。
「さて、そろそろかな……」
「うん? 何が?」
「ツバキが来んの」
「え……ツバキくん来るの?」
「そ。連れてくるから待ってて」
ミズキはそう言いながらボールを一つ取り出すとボーマンダを放った。
「ちょ、ちょっと待って!」
「何?」
「どこも変じゃない? 可笑しくない?」
気になって落ち着かない。
こんなことなら鏡を持ってくれば良かった。
ミズキは呆れた顔でため息を吐いた。
「大丈夫じゃない?」
そう言ってフィールド場からボーマンダに乗って飛んでいってしまうミズキ。
ぽつんと一人で取り残されてしまった私。
「絶対にまだ嫌ってるよね……」
私の小さな呟きは誰にも聞こえることはなかった。