頂き物
□ソプラノ・ブルー
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サザナミタウンの外れに位置する、白い渚。
ひょんなことから知り合った、遠い地方で名を馳せる女性から「穴場なのよ」と教えてもらった浜辺だった。
春と夏の間、この地方のどこかの海底にある遺跡の調査――を称したバカンスで訪れている彼女曰く、穴場と言われたこの浜辺のことは、
彼女が滞在するために自身の別荘を貸し与えている四天王のカトレアから聞いた話なのだという。
今が一番賑わいを見せる夏のリゾート地の一角といえど、穴場というだけあって人はほとんどおらず、潮の匂いが満ちていた。
「コーーンっ!」
小さな貝殻が散りばめられた輝く砂浜の上に金色が踊る。
潮風になびく9本の豊かな尻尾に燦々と照り付ける太陽の光が吸い込まれて、
ふわりと尻尾の先が揺らめけば、キラキラと音を立てて光の粒子が弾け落ちたように見えた。
「コンコン!」
はやく!こっちよ!と振り返った彼女が待ち焦がれた様子で鳴き声を上げれば、先程彼女が駆け抜けた跡が残る砂浜をダラダラとした足取りで歩く黒い影。
「ゾーロォ……。」
「コンコン、コン!」
「ロォ……。」
はやくはやくと無邪気な笑顔に急かされても、歩くスピードは変わらない。
暑さにすっかり参ってしまっているのだ。
「シフォン、はやくトルテのところへ行ってあげないと。
あのコが今日をずっと楽しみにしていたの、アナタが一番知っているでしょう。」
「……ゾーロォッ。」
後ろから聞こえてきたトレーナーの言葉にケッとそっぽを向くゾロアークのシフォン。
言われなくたって、彼女が――キュウコンのトルテが今日の自分とのお出掛けを楽しみにしていたことはわかってる。
トルテのことなら、誰に何を言われるまでもなく知っているのだから余計な口出しはするな、と振り返り様に睨みをきかせれば、
彼のトレーナーであるトウカは飄々とその視線を受け止めて、前方を掌の先で指し示す。
ついつられて顔を前に向けたシフォンのすぐ目の前に輝く金色が飛び込んできた。
「コーーン!」
「ロァァッ!?」
待ちきれなかったのだろう、無邪気な笑みを満面に広げたトルテに思いきり飛びつかれたシフォンは、驚きの鳴き声を上げながら熱い砂浜の上を転がった。
黒い毛に砂粒が纏わりついて白く色を変えるシフォンの姿と、楽しそうなトルテの姿にトウカは差し出していた掌を口元に持って行ってクスクスと笑う。
「楽しそうだね。」
早口で紡がれた言葉にトウカは顔を横へと傾けた。
「そうね、暑いのが苦手だけれどトルテにちゃんと付き合ってあげて、シフォンもすごく楽しそう。」
「キミもだよ、トウカ。」
「……楽しいわ、まだ来たばかりだけれど。」
自分のポケモンたちが楽しそうにしているのはもちろん、そしてもう一つ。
「N、アナタと一緒だもの。」
そう言えば、Nは穏やかに目を細めて「そうか」とだけ呟くように早口に口にした。