短編集

□水族館でーと
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*カエデside




「ふわぁああぁっ……!」

私は目の前のテレビに釘付けだった。
画面には大きな水族館のコマーシャルが映っている。
コンテストのような観る者を魅了させるミロカロスのパフォーマンス、ダイビングを使用しての潜水観覧、タマザラシとのふれあいプール。
私の心は直ぐに奪われた。

行きたい!行きたい!
けど、初めて行く水族館だ。

「出来ればツバキくんと行きたいなぁ……」

ぽろっと溢れる本音に慌てて口元を押さえる。
周囲に誰も居るわけではないのに。
一人で勝手に恥ずかしさに悶えながらも、私はツバキくんを誘おうと決意した。



―――――――――
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――




翌朝の登校中、前を歩いていたツバキくんを見つけた。

「ツーバーキくんっ!」

「なに?
朝からテンション高けぇんだけど……」

気怠そうに振り返るツバキくん。
私は彼の隣へと小走りに駆け寄った。
朝に弱いのは知っている。それでも、めげずに話しかける。

「あのね! 水族館に行きたいの!」

「ふーん。行けば?」

「一緒に行こうよ! 連れてって?」

「なんでオレが……」

「折角だからツバキくんと行きたいなーって! あ。私と行くの、嫌?」

「嫌じゃないけど……。なんでオレなんだ?
サクラさんでもミズキとでも行けばいいだろ?」

「ええと、ね……。
そう! 勉強したいの! 水タイプの!」

苦し紛れの言い訳をして焦る私を、ツバキくんは訝しげな目で見る。
ちょっとの沈黙。
そして一つ溜め息をついた。

「……まぁ、いいか。行こう」

その言葉は俯き気味だった私の顔を上げさせるには十分だった。

「いいの!? やった!」

「喜びすぎたろ……」

「うん! だって嬉しいんだもん!
ねえ、次の土曜日は空いてる?」

「土曜な。わかった」

「約束だからね!」

「はいはい」

なんだかんだ言って連れていってくれるツバキくんはやっぱり優しい。

「水族館……ねぇ」

「ツバキくんは行ったことある?」

「いいや。ない」

「そうなの? 実は私もなんだ。
だからね、楽しみなの!」

「ん。そうか」

「う……。本当は嫌だった?」

やっぱり行きたくなかったかな。
何か言わせたようなもんだしなぁ。
そう思って暗くなっていると、頭の上に大きな手が優しく置かれた。

「え?」

「ばーか。嫌だったら行かねーよ」

頭上の腕からちらりと覗かせる顔は子供のような無邪気な笑顔だった。

「……っ!」

ヤバい。キュンときてしまった。
これを自然とやってしまうツバキくんは本当に狡い。
そのまま頭をポンポンとされ、手が離れる。
名残惜しかったのは言うまでもない。
と言うか私たち、本当に付き合ってないんだよね?


「何してんだ? 置いてくぞ」

呆然としてた私に、いつの間にか数歩先に居たツバキくんが振り返る。

「う、うん!」

先に歩き出したツバキくんに追い付くよう、彼の隣と向かった。
 
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