短編集
□妖狐奮闘記
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とある祝日の昼下がりのこと。
ツバキとカエデはカフェ『sunshine forest』でアルバイトをしていた。
カフェの中は休日だけあって盛況。
忙しくなくウェイトレスのカエデが料理や飲み物を運び、空いた食器を下げたり、ツバキは会計やら洗い物など大忙し。
そんな主人達をガラス張りの向こう側、カフェの庭で眺めているのは彼らのポケモン達だ。
『忙しそうですね……。
私に手伝えることがあればいいんですけど。
あ、でも人間の前に出なくちゃいけないんでしょうか……。しかしツバキ様が……。
うぅ……』
黄金色の耳を垂らし、落ち込むキュウコンのリンカ。
聞き逃しそうな声に反応したのは、同じツバキの手持ちのサーナイト。フィルである。
フィルは萌黄色の細い腕で優しくリンカの頭を撫でた。
『仕方ないですよ、リンカ。
だって貴女はもふもふじゃないですか。
料理に毛が入ってしまいますよ?』
『うっ……。この身体が怨めしいです……』
『貴女は疲れた主人をそのもふもふで癒してあげればいいんですよ。貴女が羨ましいです』
『そ、そんなこと……。
で、でもフィルさんなら手伝うことができるのでは?』
『私はミラのお目付け役です』
フィルはそう言って隣に目を向ける。
そこではゾロアとウインディがじゃれていた。否、弄られていた。
『やめてよ、ミラちゃん! 僕の毛を結ばないで!』
『ふふん! 嫌なら反撃すればいいじゃん! 弱虫ガーベラ!』
ガーベラの頭の上でミラが『くさむすび』を応用して毛を結んでいた。
身体中の自慢の毛も同じ被害を被っており、その姿は酷く滑稽だ。
それでもガーベラは自身の精神を貫く。
『女の子にそんなことできないよ!』
『へぇー。じゃあ雌とのバトルでも手加減するの? アンタは』
『そ、それは……。しない……けど』
『だったら、アタイとバトルしろ!
弱虫の癖に口だけは一人前なあんたの根性、叩き直してやるっ!』
『え? い、嫌だよ!』
困惑するガーベラを見兼ねたフィルが助け船を出す。
『ミラ。余りガーベラ君を困らせちゃいけませんよ』
『でもアタイはこの弱虫の為を思って……』
空色の瞳を目一杯潤ませたミラが訴える。
しかしその表情とは真逆にフィルはにっこりと笑った。
『私に『うそなき』は通じませんよ』
『くっ……。やっぱりフィル姉ちゃんは手強い……!』
『全く貴女は……』
溜め息を溢すフィル。
直後、閃いたように目を見開き顎に当てて思考。
そしてカフェとポケモン達を紅い瞳で交互に見やる。
小さな唇が答えを出した。
『私の代わりにお目付け役をしませんか?
リンカ』
『ふぇ? わ、私ですか!?』
突然のことにリンカは目を丸くする。
『ええ。貴女が引き受けてくれれば私は主人を手伝いに行けます。
どうですか?』
『あ、えと、うぅ……』
言い淀み、カフェをもう一度注視する。
彼女の視界に入るのは忙しなく動き回るツバキの姿。
その瞳に決意が宿る。
『引き受けます!』
『ふふっ。じゃあお願いします』
フィルは朗らかに笑うと『テレポート』でカフェへと向かった。
残されたリンカは深呼吸を一つすると、いつの間にかバトルを始めたミラとガーベラの元へ足を運んだ。