頂き物

□ソプラノ・ブルー
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冬の寒さはもちろん夏の暑さも大嫌いなシフォン。
そんな彼が外で遊ぶのを嫌がって室内から出ようとしないのを気にしたトルテが、トウカにどうしようとねだったのは昨日の話だ。


クゥンと切なげに鼻を鳴らしてトウカの脚にすり寄ってきたトルテの言葉を、Nが一言一句違わず訳す。

シフォンと一緒に外で遊びたい。
でもシフォンは暑いのがイヤで外へ出てくれない。どうしたらいい?

はじめは、一番道路の海に行こうかと思っていたのだが、この時期だ。どうせ海へ行くならやっぱりもっと広くてきれいな海へ行くも悪くない。

そう思いついたのも、ちょうどテレビでサザナミタウンのリゾートビーチについての特集をしていたからだ。

サザナミタウンの海へ行きましょう――トウカがトルテの前脚を持ってプラプラと軽く上下に揺すりながら提案すれば、ボリュームたっぷりの金色の尻尾が途端に弾み上がった。
肯定の返事をみなまで聞かずともわかりやすい反応に思わず口元が緩んでしまう。

それじゃあ、さっそくみんなに……とトウカが顔を上げようとした――そのとき、トルテがコン!と高く鳴く。


「コンコンコンっ!」

「……?」

「彼女は、せっかくだから一緒にデートしましょうと言っているよ。」


一緒にデートとはつまり……ダブルデートのことだろうか。
そして、一緒にというのはシフォンとトルテと……。


「コンコーン!」

「もちろん、トウカとNよ!――そう言っているよ、トウカ。」


手持ちのみんなで……ではなく、二人と二匹で。
シフォンのことは特別大好きだが、彼以外の手持ちのみんなも大好きなトルテにしては珍しい提案だったと、そのときのトウカは目を丸くしたものだ。

後からNに聞けば、どうやらトルテはトウカのママやミルフィーユとその手の番組を見たそうで、
「ステキだからやってみたかったの」ということらしかった。


無邪気な笑顔と甘える仕草によって、否を示そうとしたシフォンからイエスの返答をもらうことに成功したトルテのはしゃぎようったらなかった。

明日が楽しみっ――そんな風に鳴きながら、暑くなってからほとんど叶わなかったシフォンとのお出掛けに身も心も弾ませるその姿は、大変に愛くるしいのだから仕方がない。



「――――本当、シフォンもなんだかんだでトルテの言うことなら聞くんだもの。」

「それだけ彼女を大切に思いやっている証だよ。
……けれど、トウカいいのかい?彼女は、ほのおタイプ……海の中へは入ることができないけれど。」


荷物を降ろして、着ていたシャツを脱ごうとしていたトウカへNが問いかければ、トウカは「ええ」と肯定を返しながら脱いだシャツを荷物の傍に簡単に畳んで置いた。
家を出る前に下に着ておいた水着姿で、改めてNへと振り返る。


「自分は水に触れられないけれど、シフォンがひとりで海で泳いだってトルテはそれで満足すると思うわ。
シフォンが喜ぶことが、トルテの一番うれしいことだから。」


だからといって、シフォンがトルテを放ってずっと海にいるような真似をするポケモンでないのもわかっている。
ひと泳ぎくらいはするだろうが、あとはトルテの傍にいてのんびりと時間を過ごすことだろう。

砂浜の上を飛び跳ねるトルテを仕方なさそうに、けれど、温和に見つめているシフォンの姿を横目に、トウカはNの手を取った。


「N、海に入りましょう。せっかくシロナさんから教えてもらった素敵な場所だもの、満喫しましょう。」

「ああ、うん。わかったよ、トウカ。」


くい、と取られた手を軽く引いてアピールしたトウカに一つ頷き、Nも着ていた服に手を掛けた。

 
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