短編夢

□緑の悪魔撃退法
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※かっこいいノボリさんはいません














「………ノボリさん」
「はい、なんでしょう」
「その皿の端によけられた緑色はなんですか?」
「………わたくしには見えませんわかりません」
「子供ですか!!」


 天下のサブウェイマスター、ノボリ。
 彼の味覚は意外と子供っぽいところがあった。


「もう!大人なんだから、ちゃんと食べてくださいよ!」
「嫌でございます!何故悪魔の実を自ら口にせねばならないのです!」
「悪魔の実じゃなくてただのピーマンです!食べてもカナヅチにはなりませんし、むしろ栄養になります!」
「こんな毒々しい色をした食べ物など、わたくしは食べ物と認めません!」
「毒々しくないです、綺麗な緑じゃないですか!」
「緑色など熟していない証拠でございます!」
「ピーマンは熟しても緑です!」


 普段は紳士で格好良い大人なのに、好き嫌いのことになるとどこの子供だといいたくなる。
 いや、上手く言いくるめられる可能性のある子供の方がまだマシかもしれない。

 とにかく頑としてノボリはピーマンを食べようとしない。
 これには毎度毎度頭が痛くなる。


「せっかく、ノボリさんに食べてほしくて作ったのに…」
「うっ……」


 少し卑怯だが、泣き落とし作戦をしてみる。
 それは効果があったのか、彼は戸惑う様子を見せた。
 もう一押しだとナマエは更にじっとノボリを見つめる。


「で、ですが、いくらナマエの手料理でもピーマンだけは…!」


 しかし決定打にはならず、ノボリに目を逸らされてしまった。

 惜しい!もう少しだったのに!

 仕方ないのでナマエは次の手を打つ。


「お願いです、一口でいいので食べてください!」
「い、嫌でございます!」
「一口かじるだけでも構いませんから!残りは私が食べます!」


 とにかく上目遣いでごり押し。
 名付けて引いた分だけ押してみる作戦に出た。
 少しずつでも味に慣れさせないと好き嫌いは克服できない。


「絶対に嫌です!ピーマンだけは食べたくありません!」


 けれどやはり彼は拒絶するばかりだった。

 もうこうなったら最終手段しかなさそうだ。
 ナマエは腹を括り、それに打って出た。


「……ピーマン食べてくれたら、なんでも言うこと聞きますから」
「…なんでも、でございますか?」


 ピクリとノボリが反応を示した。

 掛かった!

 この後の展開は目に見えているが、これも彼の好き嫌いを克服させるためである。
 覚悟を決めようではないか。


「ピーマン食べてくれたら、ですよ」
「……わかりました」


 断固として拒絶していたのに、ノボリはあっさりと承諾し、皿の端に寄せられた緑の固まりに恐る恐る箸を伸ばした。
 そして一端を箸でつまむと、それを口へと運び租借する。
 若干涙目になりつつも手で口を押さえ、最後は水で押し流すようにして全て飲み込んだ。


「さすがです!よく食べました」
「…えぇ、ちゃんと食べましたよ。ですから」


 そして彼は素敵に妖しく笑う。


「今夜を楽しみにしていますよ」


 いったいどんなことをされるやら。
 ナマエはこの後を思い、こっそり溜め息をついた。





(緑の悪魔撃退法)

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