短編夢
□さくらひとひら
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※名前変換なし
ひらり、はらりと舞い散る桜の花。
もうそんな季節になったのかと、桜を見ながらノボリは春の訪れを今更ながらに気づく。
ふと桜の木の下に視線を移すと、一人の女性がそこにいた。
手を伸ばしては空を掴み、また手を伸ばす。
花びらを取ろうとしているのだろうか。
ノボリも何気なく手のひらを広げてみると、タイミングを見計らったかのように、花の形のままの桜がポトリと落ちてきた。
ノボリはその花を手に乗せたまま、その女性へと声をかけてみた。
「よろしければ、どうぞ」
「え…?あ……」
急に声をかけられ、彼女はパッとノボリの方を振り向く。
ノボリの手に乗せられた桜の花に、自分の行為が見られていたんだと気づいて顔を赤らめる。
そして、差し出されたその花を恥ずかしげにしながらも受け取った。
「ありがとうございます」
「いえ、偶然落ちてきましたから」
「そうなんですか?すごいですね!」
「そうでしょうか?」
桜を取れたからだろうか。
偶然とはいえ、そこまでではないだろうとノボリはきょとんとする。
彼女は桜を大切そうにしながら、ポツリと話し始める。
「花びらを地面に落ちる前に取れると恋が叶って、花の形のままの桜を取れたら幸せになれるんですよ」
「あぁ…なるほど、よくあるおまじないみたいなものですね」
「はい。ただの迷信なんですけど、桜がとても綺麗だったので、なんとなくやってみたんですよ。ぜんぜん取れませんでしたけど…」
そしてまた手の中の桜に視線を移す。
純粋に嬉しそうにはにかむ彼女の笑顔は、まるで桜の花のように可憐で儚げなものだった。
その笑顔に、トクン、胸が甘く疼く。
「…確かにこれだけ綺麗ですと、効果があるかもしれませんね」
「え?」
どうやらわたくし、あなたに恋をしてしまいました。
そう告げると、彼女の頬が桜のように鮮やかに色づいていた。
(さくらひとひら)
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