novel

□君に届け、この思い
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きっかけはとてもひょんなことだった。
落とし物を自分が拾い、渡した時に微笑んだ彼の美しい表情が、網膜に焼きついて頭から離れなくなってしまったのだ。
本当に一瞬の出来事だったので、名前すら知らない。でも自分が彼に好きという感情を抱いているのだと理解するのにそう時間はかからなかった。更に驚いたのは、彼の住む部屋は自分の住む部屋から実に5秒程度で着いてしまう程近い場所にあったということ。
こんな奇跡あっていいものなんだろうかと変な不安に駆られたが、それよりも彼が自分のこんなにも近くにいることが嬉しくてたまらなかった。
しかし近くても遠いのが現状。
あの日以来話す機会はないし自ら話しかける勇気も持ち合わせていない。普段はナンパで女性を何度も口説き落としているにも関わらず、本当に好きな人へなにひとつ思いを告げられない自分のヘタレ加減に嫌気がさしてしまう。

どうにかして、彼に思いを伝えられないものだろうか。
ふと目にとまったのは毎日のように届く自分あてのラブレター。知った顔のものから全く知らないものまで様々な人から寄せられた手紙が机の上にまとめて置いてある。
これなら。自分の思いの丈を彼に伝えられるのではないだろうか。文章を書くのは得意ではないが、思いを伝えられるのなら別だ。引き出しの奥深くに眠っていた便箋を掘り起こし、ペンを片手に机に向かった。

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