amante

□1人にしてと微笑うお前の、震える手を離すものかと
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嗚呼、全てあれから始まったのだ。
『頼むから…今は1人にしてくれないか。』

偶然は恐ろしい。はたまたこれは必然だったのか知る者はいないだろう。彼の瞳からポロポロと絶え間無く零れ落ちるそれは、悲しみの結晶なのだろうか。苦しみの結晶なのか。あいつがそれを俺に告げることはなかった。ただ、ひっそりと、誰にも悟られぬように人知れず自分の部屋で涙を流すのを、偶然にも見つけてしまったのだ。
「…ヴィオ、どうしたんだ⁉」
「ブルーっ…!」
しまったと言うような表情のヴィオの肩を掴んで真っ直ぐに瞳を見つめる。
「なんでも、ないから…大丈夫だから。」
「大丈夫なわけないだろ⁉そんなに泣くなんて相当辛いことがあったんだろ!!」
未だヴィオの瞳から零れ落ちる涙は白くきめ細やかなヴィオの肌をどんどん赤くしていく。
「頼むから…今は1人にしてくれないか。」
震える声で呟かれた言葉はひどく頼りなく、脆かった。元は同じ1人の人間なのに、こうも心を理解するのは難しいとは…
自分よりも華奢な体を抱き寄せ、離すまいと優しく抱きしめる。驚いたように見開かれた瞳を真っ直ぐに見つめ、涙を拭っていた冷たい手を優しく包み込むようにして握りしめる。

1人にしてと微笑うお前の、震える手を離すまいと

(絶対に離してなんかやらない。お前が俺に頼るまで。)



『…ありがとう。』

冷えた手が暖まるのにそう時間はかからない。

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