story 2

□please
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「ナギさん…?」


振り向くと不安そうな顔でココアが佇んでいる


「…お前か、何か用か」


「いえ…ナギさんなかなか戻ってこないからどうしたのかなって」


「…あと少ししたら戻る、先に寝てろ」


「はい…」


シュンと肩を落とし船室へ戻るココアの背中を見送ると


入り口でココアが立ち止まりこちらを振り返る


「待ってますから」


「…?」


「あの…夜は冷えますから…待ってますから早く戻ってくださいね」


「…ああ」


ココアは小さく微笑むと船室へと姿を消した









「…待ってます、か…」


何のために俺がこうしてここにいるのかココアにわかるはずもない


空になったグラスに酒を注ぎ


一気に飲み干す


吐き出す息が白い


何杯飲んでも酔えない自分が恨めしい











いつのころからかココアを目で追うようになっていた


ココアがほかの奴らと笑って話しているのを見て腹が立った


厨房を手伝わせるから


同室だから


理由をつけてはココアを側にいさせた


それなのに


ココアが俺に向ける


素直さ


優しさに胸が締め付けられる


嬉しいくせにどう反応していいか分からず


つい冷たい態度をとっちまう


いつもこの目に映しておきたいのに


距離を置こうとしてしまう










同じ部屋の中


ベッドと床に別れて眠る


毎晩その瞬間ココアは少しためらいを見せる


一人でベッドを占領するのは申し訳ないと言ってなかなかベッドに入ろうとしない


そんな目で見つめられたら…


勘違いしちまうだろ


ココアに手を伸ばし


この腕の中に収めてしまいたい自分をやっとのことで封じ込め


ココアに背中を向ける






起きているココアを目の前にすると


その衝動を抑えることができなくなりそうで


こうして毎晩


甲板で酒をあおり


時間をつぶす


「待ってるか…」


漆黒の海に向かってぽつりとつぶやく


「…ンなこと言うなよ…また戻れなくなっちまうだろうが」


今頃ベッドに座り眠い目を擦りながら俺の帰りを待ってるだろう


今戻れば、ぱあっと顔を輝かせて俺を迎えてくれるのだろうか


眩暈がするほど眩しいあの笑顔で…


俺の存在全てを肯定するようなその笑顔に


俺はまた自分を見失いそうになる


ココアを俺のものにしてしまいたい


抑えても抑えても湧き上がる衝動と


俺は、今夜もまた戦っていた






仲間を作れば裏切られる


守ろうとすると消えていく


ココアも求めれば俺から遠く離れて行きそうで


離したくない


ならばこのままで…


酒と一緒に想いをぐっと胸にしまいこむ









「そろそろ戻るか…」


ココアも待ちくたびれて寝ただろう


眠ったココアに手を出すほどオレもバカじゃねえ


フッと息を吐きだすと


空になったグラスを厨房へ戻し


部屋へと続く廊下を歩き始めた









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