短編集
□彼女の恋人
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「幹久くん」
彼女が小牧をこう呼ぶ時、その後に続くのがろくでもないことを小牧は知っている。
「…やらないよ」
読んでいた本で軽く頭を小突くと杏里はむぅと膨れた。
「…まだ何もいってない」
「言わなくても分かるから」
「わぁそれは素敵な絆だね私たち」
「うん。俺は杏里が大好きだからね」
当たり前かのようにそう言った小牧に杏里は困って視線を泳がせる。
「そういう台詞は言えるのに」
「本当の事だから」
「…いつか言ってくれる?」
「気が向いたらね」
本当は今言ってあげても良かったのだが、彼女の拗ねた顔があまりにも可愛いから。
小牧は今日も彼女が聞きたい一言を口にしない。
芸能人は、歯が命。