図書館戦争アナザー番外編

□ラブ・イン・パスト
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「だぁっ、遅かったか!」

隊員食堂の食券販売機のボタンが軒並み赤く点灯しているのを確認した笠原はがくりと肩を落とした。

「この時期は仕方ないわよねぇ。諦めて外でランチと洒落込みますか」
「あたし今月厳しいのに…」

寮暮らしと言えど財形で五万も天引きされた後の士長の財布の寂しさなど皆似たりよったりだ。

そのため普段は隊員食堂を利用するのだが、その食堂も四月は教育隊の新隊員でごった返す。
昼休憩に入るのが少しでも遅れると今日のようにラーメンのトッピング以外売り切れというなんとも悲しい状況になるのだ。

おまけに今年は全国の基地から優秀な人材を集めて行われるスキルアップ研修の会場が関東図書基地にまわってきた為に研修に参加している隊員も食堂を利用する。
そんな状況でここ一週間、奈緒たちは毎日外ランチに出ている。
この出費は痛い。
笠原でなくともため息をつきたくもなる。

「いい機会だと思ってこの辺の安い定食屋でも開拓する?」
「うーん…今日みたいに柴崎や御堂と昼休憩かぶればいいけど、あたしそういう店1人ではいれないんだよなぁ」
「あぁ、あんたラーメン屋とか牛丼屋1人で入れないタイプだもんねぇ」
「え、笠原ってそうなの?」

それはちょっと意外だ。
いや、意外でもないか。なんだかんだいっても笠原は箱入り娘だし、中身はこの三人の中で一番乙女だし。

「戦闘職種でテント暮らしやってのける女が1人で定食屋に入る事の何に恥じらいを覚えるのかあたしには理解できないけど」

肩をすくめる柴崎に、笠原は「それとこれとは別」と頬を膨らませる。

「とりあえず今日は1人じゃないんだし、どっか安そうな店探して入ろ」
「んー。流石にもう小洒落たイタリアンとかいける余裕ないしなぁ」
「そうだ御堂、堂上教官にこの辺でいい店ないか聞いてみてよ。男の方がそっち系の情報は豊富でしょ」
「あぁ、そうかも」

ポケットから携帯を取り出したその時、

「あっくん!!」

背後から叫ばれたその声に驚いて振りかえると、いかにもキャリアウーマンといった女性がその雰囲気に似つかわしくない豪快な仕草でぶんぶんと両手を振っていた。

その女性の視線の先で困ったような顔で片手をあげた人を見て、奈緒は携帯のボタンから親指を離す。
その間に、キャリアウーマンは嬉々とした様子で今まさに奈緒が電話をかけようとしたその人である堂上に駆け寄った。

あっくん。

彼女は確かに堂上をそう呼んだ。

「ちょ、御堂!目開きすぎ!!目玉がこぼれ落ちそうっ」
「えっ!?あ、うん」

笠原にがくがくと肩を揺さぶられ、ようやく我に返った。

「あー…と、小牧教官に聞いてみる」
「あ、うん、それがいいよ。小牧教官に聞こう!」

今堂上に電話をすると談笑している2人の邪魔をしてしまいそうで、アドレス帳をスクロールして小牧の名前を探す。

「お呼びですか?お嬢さん方」

小牧の名前を探し当てたところで、当の本人に声をかけられた。

「そういう事なら、俺達も今から外に飯食べに行くし一緒に行こうか」
「俺…たち?」

笠原が気まずい視線を堂上の方に向けると、小牧はそれだけで状況を理解したのかくつくつと笑いながら首を横に振る。

「堂上、午後一で会議だから早めに昼入ったんだよ。手塚は今近くの飯屋で順番待ちしてくれてる。俺は一応食堂の様子見にきたんたんだけどこれじゃ外決定だし、どうせならみんなで行こう」
「もちろん小牧教官のおごりですよねぇ?」
「うーん、このメンツだと必然的にそうなるね」

小牧について歩き出すと、腕を組んだ柴崎が「あっくんねぇ…」と面白そうに呟いたのを笠原が肘で小突いた。

なんとなく、堂上とさっきの女性が楽しそうに話してる姿を見たくなくて、奈緒は振り返らずに食堂を出た。
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