図書館戦争アナザー
□歪なトライアングル
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「じゃあなにか。お前はそのぶっ飛んだ勘違いを半年近く続行させてたのかよ」
手塚が頭を抱える。
「ほんとびっくりするわ。こいつが図書館業務訓練の時にあたしになんて言ったか聞いてたでしょ!?」
「あぁ…無能な奴はいっそ喋るな?」
「それをラブに繋げるあんたの脳の構造どうなってんのよ!?」
タスクフォースとしての怒涛の研修期間も終了し、通常の勤務体系に戻ると新人三人でチームを組み行動することが増えてきた。
特殊任務がない時のタスクフォースは図書館業務と警備と訓練のローテーション勤務となる。
今は三人で敷地内のデモ警備の最中だ。
タスクフォース配属当初は笠原を無能な人間と決めつけていた手塚がことごとく悪態をつきいがみ合っていたが、任務をこなすうちにすっかり打ち解けた。
関係の改善には良化隊が検閲対象の本を押収する目的で武蔵野第一図書館を襲撃してきた事件が大きく影響している。
手塚の射撃の腕を信頼し、銃弾の嵐の中リペリングし本を守った笠原の姿は自分や奈緒とは違う理由で笠原がタスクフォースに選ばれた意味をようやく手塚にも咀嚼させたのだ。
槍玉に挙げられているのは妙に手塚と笠原に気を使う素振りの奈緒を不審に思った手塚が問いただした結果、奈緒が依然として「手塚は笠原にラブ」と思い込んでいたのが発覚したためである。
「大体そう思ってたんならなんであたしに言わないのよ。そしたら全力で否定したのに。凡人の斜め上をいく発想を自覚してそういう思い込みを後生大事に抱えこむな!迷惑だから」
「いや、手塚の名誉のために言えないでしょ、そういうのは。ツンデレかと思ってたし」
「むしろそれ俺にとっては不名誉だろ。相手がこれじゃ余計に」
肩を竦める手塚に笠原が憤慨した。相変わらず喧嘩三昧だがそこに険はない。
「まぁ、ようやくうちらも同期らしくなったってことで。めでたしめでたし」
「勝手に完結させるな!」
2人の声が重なって奈緒は苦笑した。
図書館の前庭では市内のPTA団体が大規模な集会を開いていた。
今日のデモ警備の対象だ。
戦闘服や図書隊の制服ではいかにも「監視してますよ」と言っているようなものなので、野次馬に紛れられるよう私服でその様子を窺う。
三人はさしずめ図書館に課題をやっつけにきたゼミ仲間といったところだ。
「そういう格好もできんだな」
「…まぁね」
感心した様子の手塚に無愛想に答えたのは、今朝私服警備だからとスエットで出勤したのを堂上に一喝され着替える羽目になったからだ。
紙袋に入れたまま放置していた数パターンの私服の中にタグ付きのフレアスカートがちゃっかり紛れており橘の抜け目のなさにも微妙に腹が立つ。
スカートはそのままクローゼットに投げ捨てて、マニッシュな女子大生風にどうにか仕上げたのだが、それを褒められても釈然としない。
壇上では初老の女性がなにやら熱弁をふるっていた。
「子供の健全な成長を考える会…ねぇ」
「健全な成長って具体的にどういうこと?」
「俺に聞くな。わざわざここを選んでデモ集会開いてるってことは俺らみたいなのはあの人達にとって健全に成長しなかった子供なんだろうしよ」
僅かに眉根を寄せて集会の成り行きを見守る手塚にそれもそうだと納得する。
嫌悪を滲ませた視線の先では女性が演説を終え賞賛の拍手を浴びていた。
なんとか無事に終わりそうだな、ともう一度当たりを警戒すると後方からの嫌な気配に気づく。
『堂上教官、私達の後ろの2人組…』
別の場所で警備に当たっている筈の堂上に報告を入れつつ振り返る。
やばい…っ。
堂上の返答は待たずに飛び出した。
パンパンパンッ!
同時に乾いた破砕音が立て続けに弾け、その音にきゃあ!と団体の人混みが揺れる。
『御堂!!』
耳からこぼれ落ちた無線のイヤホンから叫ばれた堂上の声は騒ぎにかき消された。