図書館戦争アナザー

□揺れるシグナル
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「お姉ちゃん、これあげる」
「いいのー?ありがとう」

なぜか拗ねた顔の少年が図書館の庭のどこかから引っこ抜いてきたのだろう草花を無造作に突き出したので礼を言って受け取ると、少年は仏頂面で、じゃあね、とだけ言って去っていった。

今日はこれで何人目だろうか。基地警備と練成訓練のローテーション勤務に移行してから初の図書館施設内の警備についた奈緒のところへ入れ替わり立ち替わりお子様がやってきては花やら木の実やら本日の3時のおやつに至るまでをあげる、と手渡してくるのだ。

その一部始終を傍目で見ていた小牧はクックと喉で笑う。

「モテモテだね、御堂さん。半分持とうか?」
「…えーっと」

両手に余る量のプレゼントを前に奈緒は逡巡したが遠くから感じる小さな視線の手前小牧のありがたい申し出を受けるのも気が引けて、一応貰い物ですから、と制服のポケットに詰め込む。
少し考えて花だけは形が崩れないよう胸ポケットに差し込んだ。

無駄のないラインの制服が不格好に崩れたのを見て小牧が目を細める。

「初恋泥棒だね」
「いらん二つ名をつけないでください」

小牧の軽口に奈緒はむくれた。

「小さいお友達は微笑ましいだけだからいいとして、あっちの大きいお友達の扱いには注意が必要だね」

小牧が視線で示した先に見覚えのある男の姿を視認して奈緒の顔が引きつる。
書架の陰からうっとりとこちらを見つめるその人物は四年前奈緒から鉄拳を食らわせられた当該者、木村正一だ。

図書館から申し渡された入館制限措置の期限はとっくに切れている。

「前に問題起こしたことのある利用者なんだよね。なんでも偶然見かけた利用者の女の子が自分の好きなアニメのキャラクターに似てるって理由でエキセントリックな行為に及んだとかで当時隊内でも話題で…なんだっけな、確かキラキラぼ」
「あぁーそうなんですか、それは要注意ですね。気をつけます、全力で気をつけます!」

いたたまれなくなり小牧の言葉を途中で遮った。

「そうだね。是非そうして」

小牧が感情をのせずそう言うとそっぽを向いたので怒らせてしまったのかと不安になり小牧の表情を窺うと、その懸念はすぐに吹き飛んだ。

「……小牧教官。知ってましたね」

奈緒から目を逸らした小牧は、こみあげる笑いを必死で堪えていた。

今にも発作を起こしそうな小牧をその場に残しズカズカと歩いていると、小走りで追ってきた小牧が奈緒の頭に軽く手を置いた。
反対の手には携帯を握りしめて。

「緊急出動。君のお友達…あ、これは本当の意味でね。笠原さんがピンチだ」

言いつつ館の出口へと走る小牧を今度は奈緒が追いかける。

必然的に木村正一の目の前を横切る形になってしまい、嬉々として、ののたん!と叫んだ木村を超意識的に無視した奈緒だったが、反対にブッと吹き出した前を走る背中は睨みつけた。
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