図書館戦争アナザー

□それぞれのファースト
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「笠原!」
「笠原ぁあ!」
「笠原ぁぁぁあ!」

訓練場に堂上の怒声が飛び交う。それはもう新人隊員にとって日常と言っていい。

堂上たちの対角線上で訓練メニューをこなしていた小牧班の面々も、また始まったよ、と半ば飽きれながらその様子を窺っていた。

「相変わらずあっちは賑やかだね」

抜く手もなくノルマをこなして手持ち無沙汰だった奈緒の隣で、こちらも相変わらずの笑顔を貼り付けた小牧が放言する。

「最近気がついたんですけど、堂上教官って何か言おうするともう口が『か』の形になってるんですよね。『か』じゃない時は大体『あ』なんですけど、最近それで1人博打やってるんです。結構面白いんですよこれが」
「…1人博打?」
「堂上教官が口を開けた瞬間に笠原ぁ!なのか、アホか貴様!なのか自分の中で賭けるんです」

奈緒の軽口に小牧が白い歯をこぼす。

「それでその博打の勝率はどうなってるの?」
「43勝2敗1引き分けです」
「…引き分け?」
「その時は、バカ野郎!でした」

奈緒が不満気に頬を膨らませると、小牧は腹を抱えて笑い出した。
何がそんなに面白いのかわからなかったが、堂上の怒声に慣れたように小牧の上戸にも耐性ができてきた奈緒は敢えて突っ込むこともせず小牧の発作がおさまるのを待った。

「あーもう限界!腹いてぇー。でもさ、それってちょっと…いや、だいぶ?笠原さんに対して失礼だよね」

言いつつぷっと吹き出した小牧は肩を震わせながら腕立てに四苦八苦していた女子隊員の元へ歩いていく。

刹那、堂上が笠原ぁ!と怒鳴ったのを聞いて小牧がまた相好を崩したのを奈緒は見逃さなかった。
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