結局、先輩はみつからなかった。

だけど、やはりアジト内にはいたみたいだ。

夕飯のときには来た。

みんなの分のクッキー持ってきたし、今渡そうか……

いや、でもみんなが食べ終わってからのほうがいいかな…………

いろいろ考えてたら、王子が話しかけてきた。

……ナイフを投げながら。

「あっれ、柚……飯食わねぇの?」

考えてたら食べるのを忘れてたうえにいつものケンカが始まっていた。

あわわ……、止めなくちゃ……。

「みっ、みんな!コレ、私が作ったんだけど……よかったらどうぞ!」

私が必至にそう叫ぶとボス以外のみんながバッ、とこっちを見た。

そしてみんな口々に話はじめた。

「あらぁ〜、おいしそうね〜!」

「……ぬ、俺にもか?」

「えっ、まじで?柚の手作り?やった!」

「きっと腹壊しますねー」

「…………」

相変わらずボスはこちらに見向きもせずに黙々と肉を食べている。

私は全員にクッキーの入った袋を渡していく。

ボスにも渡そうと近づいていった。

「あの……ボスもよかったらコレ……」

私が戸惑いながらも差し出すとボスは一旦食べるのをやめ、目線は肉にいったままボソリと言った。

「……そのへんにおいとけ」

私はボスの食器の隣あたりにそっと袋を置いて、自席へと戻っていった。

……隊長がいないのが残念だなぁ。

せっかく剣の形したクッキー作ったのにな。

本当は鮫の形作りたかったけど無理だった。

目線を感じ、顔を上げると何故かみんながこちらを見ていた。

「……あの」

私が何か言おうとすると。

「柚、どうした?なんかしょげてたぜ」

「なにか悩みがあるなら言ってね〜」

隊長にクッキー渡せなかったってこと考えてたからかもしれない。

「あ、いや。隊長にクッキー渡せなかったなって……」

私がそう言うと、みんな一斉に吹き出した。

……?どうしたんだろ…………?



ご飯を食べ終わったあと、自室に戻る途中、先輩を見かけた。

「…………先輩っ!!」

私がそう笑顔で叫ぶと、先輩はチラッとこっちをみて言った。

「その服とてつもなく似合ってませんね、なんか目障りです」

いつもの先輩と何か違う気がした。

違和感を覚えた。

だけどその違和感より大きかったのは、低く冷たい先輩の言葉。

さっきクッキーを受け取ってくれただけで気持ちが浮かれていたから、余計重くのしかかってきた。

何故だか、涙が溢れてきた。

「あれ……、おかしいな。いつものことなのに」

あはは、と私がぎこちなく笑うと。

「目障りですから、もう視界に入ってこないでくださいー」

「っ…………」

私は走った、必死に。

途中で王子が何か叫んでいたようだが、きこえなかった。

アジトを出ようとした直前

突然体の自由がきかなくなった。

「……ふふ、こっちよ」

「………………はい、レグラ様。」

……この感覚。

マ イ ン ド コ ン ト ロ ー ル ?

駄目だ。段々意識が遠のいていく。

私は完全に自分の意識を手放した。

*コントロールされた柚葉視点

「今日からここがあなたの家よ」

レグラ様につれてこられたのは、とてもとても大きいアジトだった。

そのままレグラ様についていくと、1人の男の人がいた。

「よくやった、苦労かけさせたな、レグラ」

「いいの、自分のためにもなるんだから」

「あのフランと言う男か」

「えぇ、あの方の幻術はとても素晴らしいわ。顔も私好みなの」

……フラン?どこかできいたことのある名前。

だけどわからない。

「柚葉、君は明日で俺の永遠のパートナーになるんだ」
男の人は優しく笑いかけてきた。

「はい、レグノイス様」

「いい子だ」

*フラン目線

いきなりベル先輩が走って来た。

相当急いでいたのか、息をきらせている。

「どうしたんですかー?そんなに急いで」

「どーしたもこーしたもねーよ!柚が!!」

は?柚ぽん?

「……柚ぽんがどうしたんですかー?」

「さっき泣きながら走ってて、急いで追いかけたんだけどアジトの入り口付近で変な女と一緒に……」

変な女って……

「マイコンされてるっぽかった」

先輩は唇を噛みしめ俯いた。

「クソッ、俺が途中で見失わなければ……」

「……落ち着いてくださいー、ミーは一旦部屋に戻ります」

「なんでお前はそんなに落ち着いてられんだよ!柚が心配じゃねえのか!?」

心配ですよ。

はらわた煮えくり返ってますよ。

ミーは先輩の言葉をスルーして、部屋に戻った。

戻る途中も、先輩はずっと話かけてきた。

「おいフラン!お前は柚が大事じゃないのか!?」

なんと部屋の中にまでずかずかと入ってきた。

「お前がそんなんなら、本気で柚をとりにかかるぞ」

その言葉と机の上に置いてあった紙を見て、ミーの怒りはついに頂点に達した。

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