「おっかしーなー」

あれから暫く探すが先輩は見つからない。

相変わらず神出鬼没だなぁ……

私は諦めてお菓子を作ることにした。



私はお姉ちゃんと料理人達に一声かけてキッチンへ向かった。

さーて、何作ろうかなー……

さすがヴァリアー、食材はたっぷりある。

これなら大抵なんでも作れそうだ。

私は散々考えた結果、クッキーを作ることにした。

先輩は甘いものがあまり好きではなかった……はず。

冷蔵庫から薄力粉、片栗粉、バター、加糖ココアを、棚からボウル、ゴムベラ、泡立て機、はかりを取り出し作りはじめた。

まずはすべて計量。

次にバターをクリーム状になるまで加熱してとかし、甘くならないよう砂糖をいれないかわりに、加糖ココアをいれてなめらかになるまでまぜる。

薄力粉と食感を軽くするために入れる片栗粉をふるいにかけて、バターとココアを混ぜた中へ入れる。

生地が出来たら冷蔵庫で1時間寝かせる……

「あぁー、もう!疲れたっ」

何しろお菓子作りなんて初めてなんだ。

私は近くにある椅子に座り、一息つく。

少し休憩したあと、洗い物があったのを思い出し、袖をまくって道具を洗い始めた。

その間も頭の中は先輩でいっぱいだ。

また一緒に任務行きたいなー、とか

クッキー食べてくれるかなー、とか

そりゃあもういろんなことがぐるぐると頭の中を駆け巡る。

ツルッ

っと、考え事をしてたら道具が手から滑り落ちそうになった。

お皿みたいに割れるわけじゃないけど、暗殺部隊に入ってるんだから注意力が散漫してたら話にならない。

何かを考えていると過ぎる時間も早く感じる。

あっという間に洗い物が終わってしまった。

まだ10分も経ってないのになぁ……

しょうがなく私は調理場を出ていった。

時間を潰すためだ。

自室に戻り買ってきた服を整理しようと、ベッドの前に置いてた袋をクローゼットの前に持ってくる。

「入りきるかなぁ……」

ざっと30着はある。

入りきるかどうか心配だ……



服の整理の他、部屋の掃除も終わり、時計をみると丁度1時間程たっていた。

私は自室を出て小走りで調理場へ向かった。



冷蔵庫から生地を取りだし、型抜きし始める。

生地が上手い具合になじんでいるせいかやりやすい。

型抜き終わり、オーブンに並べて入れる。

時間を25分にセットしてあとは待つだけだ。

私はそのへんに置いてあったレシピ本を手に取り、椅子の元へ向かう。

椅子へ座り、レシピ本をパラパラとめくっていると急に睡魔が襲ってきた。

寝ちゃだめだ、と思うものの、まぶたはどんどん重くなるばかり。

いつの間にかまぶたは完全に閉じ、私は眠りへと落ちていった。


ー?目線ー


暇でぶらぶら歩いていると、調理場の扉が開いてるのが見えた。

ほんのりココアのような匂いがする。

中をのぞくと椅子に誰か座っていた。

いや、眠っている。

膝に本を乗せ、スゥスゥと規則的な寝息をたてている。

ふと匂いのするほうを見ると、オーブンから少しだけ白い煙がでていた。

どうやら何か焼いていたようだ。

まだ煙が出ているから、焼きたてだろう。

オーブンの扉を開けると、先程から漂っていた匂いとは比べ物にならない程いい匂いがした。

ココア風味のクッキーだろうか……?

色々な形のクッキーが並べられていた。

何故か肉、ティアラ、雷、太陽の形をしたクッキーが2つづつある。

蛙のクッキーだけ3つ……。

「…………」

何となく目についた花型のクッキーを1つ口に入れた。

ふんわり広がるココアの香りがなんともいえない。

オーブンの隣に置いてあった袋を見て、つい苦笑いがこぼれた。

その後すぐに調理場を後にした。



ー誰の視点でもないー

"?"が去ってから丁度4分。

柚葉が眠っている調理場の扉が開いた。

入ってきたのは女だった。

女は迷わずオーブンの元へ向かうと、

バンッ、と勢いよくオーブンを開け

中から蛙とハートの形のクッキーを1つずつ取り出し、

蛙型のクッキーは口の中へ、

ハート型のクッキーは手のひらへ。

手のひらに乗ったハートのクッキーはいとも簡単に握りつぶされた。

女は不敵な笑みを浮かべ、調理場から去っていった。



ー柚葉視点ー

「ん〜……」

……………………!

私は勢いよく立ち上がった。

いつの間にか寝てしまっていたようだ……。

急いでクッキーを袋に詰め、調理場を後にした。

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