「おっかしーなー」
あれから暫く探すが先輩は見つからない。
相変わらず神出鬼没だなぁ……
私は諦めてお菓子を作ることにした。
*
私はお姉ちゃんと料理人達に一声かけてキッチンへ向かった。
さーて、何作ろうかなー……
さすがヴァリアー、食材はたっぷりある。
これなら大抵なんでも作れそうだ。
私は散々考えた結果、クッキーを作ることにした。
先輩は甘いものがあまり好きではなかった……はず。
冷蔵庫から薄力粉、片栗粉、バター、加糖ココアを、棚からボウル、ゴムベラ、泡立て機、はかりを取り出し作りはじめた。
まずはすべて計量。
次にバターをクリーム状になるまで加熱してとかし、甘くならないよう砂糖をいれないかわりに、加糖ココアをいれてなめらかになるまでまぜる。
薄力粉と食感を軽くするために入れる片栗粉をふるいにかけて、バターとココアを混ぜた中へ入れる。
生地が出来たら冷蔵庫で1時間寝かせる……
「あぁー、もう!疲れたっ」
何しろお菓子作りなんて初めてなんだ。
私は近くにある椅子に座り、一息つく。
少し休憩したあと、洗い物があったのを思い出し、袖をまくって道具を洗い始めた。
その間も頭の中は先輩でいっぱいだ。
また一緒に任務行きたいなー、とか
クッキー食べてくれるかなー、とか
そりゃあもういろんなことがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
ツルッ
っと、考え事をしてたら道具が手から滑り落ちそうになった。
お皿みたいに割れるわけじゃないけど、暗殺部隊に入ってるんだから注意力が散漫してたら話にならない。
何かを考えていると過ぎる時間も早く感じる。
あっという間に洗い物が終わってしまった。
まだ10分も経ってないのになぁ……
しょうがなく私は調理場を出ていった。
時間を潰すためだ。
自室に戻り買ってきた服を整理しようと、ベッドの前に置いてた袋をクローゼットの前に持ってくる。
「入りきるかなぁ……」
ざっと30着はある。
入りきるかどうか心配だ……
*
服の整理の他、部屋の掃除も終わり、時計をみると丁度1時間程たっていた。
私は自室を出て小走りで調理場へ向かった。
*
冷蔵庫から生地を取りだし、型抜きし始める。
生地が上手い具合になじんでいるせいかやりやすい。
型抜き終わり、オーブンに並べて入れる。
時間を25分にセットしてあとは待つだけだ。
私はそのへんに置いてあったレシピ本を手に取り、椅子の元へ向かう。
椅子へ座り、レシピ本をパラパラとめくっていると急に睡魔が襲ってきた。
寝ちゃだめだ、と思うものの、まぶたはどんどん重くなるばかり。
いつの間にかまぶたは完全に閉じ、私は眠りへと落ちていった。
ー?目線ー
暇でぶらぶら歩いていると、調理場の扉が開いてるのが見えた。
ほんのりココアのような匂いがする。
中をのぞくと椅子に誰か座っていた。
いや、眠っている。
膝に本を乗せ、スゥスゥと規則的な寝息をたてている。
ふと匂いのするほうを見ると、オーブンから少しだけ白い煙がでていた。
どうやら何か焼いていたようだ。
まだ煙が出ているから、焼きたてだろう。
オーブンの扉を開けると、先程から漂っていた匂いとは比べ物にならない程いい匂いがした。
ココア風味のクッキーだろうか……?
色々な形のクッキーが並べられていた。
何故か肉、ティアラ、雷、太陽の形をしたクッキーが2つづつある。
蛙のクッキーだけ3つ……。
「…………」
何となく目についた花型のクッキーを1つ口に入れた。
ふんわり広がるココアの香りがなんともいえない。
オーブンの隣に置いてあった袋を見て、つい苦笑いがこぼれた。
その後すぐに調理場を後にした。
*
ー誰の視点でもないー
"?"が去ってから丁度4分。
柚葉が眠っている調理場の扉が開いた。
入ってきたのは女だった。
女は迷わずオーブンの元へ向かうと、
バンッ、と勢いよくオーブンを開け
中から蛙とハートの形のクッキーを1つずつ取り出し、
蛙型のクッキーは口の中へ、
ハート型のクッキーは手のひらへ。
手のひらに乗ったハートのクッキーはいとも簡単に握りつぶされた。
女は不敵な笑みを浮かべ、調理場から去っていった。
*
ー柚葉視点ー
「ん〜……」
……………………!
私は勢いよく立ち上がった。
いつの間にか寝てしまっていたようだ……。
急いでクッキーを袋に詰め、調理場を後にした。