短編・番外編(ブック)

□愛獲なんてくそくらえ!
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・酷い。色々な意味で酷い。
・ゲーム未プレイ。
・自己満足の産物


どんなものでもどんとこい!という方だけどうぞ。
万が一気分を害されましても、責任は負えませんのでご了承ください。



 時は江戸末期、日本を支配する江戸幕府は以前の頃と姿を変えていた。刀を腰に下げ、街を我が物顔で歩いていた幕府お抱えの武士も、今では歌って踊れる政府の看板に成り下がった。それだけならまだしも、幕府は自分たちが定める「天歌(ヘブンズソング)」以外の歌を歌うことを禁じ、もしもそれを破った場合には死罪である。もう一度言う。死罪である。意味が分からない。今まで偉人たちが作り上げてきた日本の文化を、幕府は断絶したのだ。それだけならまだしも、幕府はとんでもない集団を江戸、いや日本全土に投下していった。幕府直属の最高愛獲(トップアイドル)集団「新撰組」である。
 最初、日本の民たちは驚いた。そりゃそうだろう。いきなり幕府に「天歌以外の歌を歌ったら、お前ら死刑な」と言われたあげく、新撰組という謎の愛獲(笑)集団が登場したのだ。しかし、それは少しの間だけで。民衆たち(貴族も含め)は瞬く間に(主に女性が)新撰組にどっぷりと浸かっていった。その原因は、新撰組のダブルスターだ。その名を、土方歳三と、沖田総司という。彼らは持ち前のルックスと、その個性的なキャラクターで人気が急上昇していった。それはもう、恐ろしいくらいに。本当、お前らの順応性どうなってるの。催眠術でもかかってるの。訳が分からない。もういっそのこと、これを売りにして開国しちゃえよ。そうだ、それがいい。というか、天歌ってなんだよ、その他の歌禁止ってなんだよ。お前ら歌舞伎馬鹿にしてるのかよ。日本の偉人が作り上げた文化だぞ。それを禁止ってお前。
 落ち着こう。もうお分かりかと思われるが、俺は江戸幕府が嫌いである。ついでに言うと、天歌や最高愛獲(笑)「新撰組」も反吐を吐くぐらい嫌いだ。(これを言ったら捕まるし、死罪で殺される前に民衆の、特に女性の皆さんの手によって地獄に送られるので、外では言わない)もちろん、嫌いな理由はある。俺だって、最初は「まぁ、好きでやってるなら良いんじゃないの」という感じだった。俺の彼女が、沖田総司の熱烈な煌(ファン)になるまでは。そして、それが原因で俺が彼女にフラれるまでは。


 遡ること、三か月前。その月は、俺の愛しい絵里加ちゃんの誕生日月であった。自他ともに認める絵里加馬鹿出会った俺は、「これは絵里加ちゃんの喜ぶプレゼントを、彼女に贈らなくてはいけない。そしてあわよくば……」と内心下心含めて考えていた。しかし、俺は男だ。女の子の好きな物、というのは良くわからない。絵里加ちゃんに、彼女の好みに掠りもしないプレゼントを贈って喜ぶだろうか。答えは、ノーである。喜ぶわけない。むしろ、嫌われるかもしれん。もしそうなったら、俺はどうやって生きていけばいいんだ。そういうことで、俺は絵里加ちゃんに直接「プレゼントはなにが良い」と聞くことにした。

「絵里加ちゃん!」
「なあに、苗字くん」
「もうすぐ、絵里加ちゃんの誕生日じゃん……?」
「えー?まだと三か月もあるよ?」
「いや、そうなんだけど、俺にとってはもうすぐだからさ……。それでね、絵里加ちゃんは誕生日になにが欲しいかなぁって……」
「新撰組の雷舞チケット、かな」
「え?」
「だから、新撰組の雷舞チケット。沖田様の生歌聞きたいなぁ!」

 愕然とした。まさか、彼女まであの新撰組に毒されていたなんて。あの、可愛くて、美しくて、麗しくて、天使で、妖精な絵里加ちゃんは、すでに新撰組沖田総司の毒牙に掛かっていたのだ。許すまじ、新撰組。許すまじ、沖田総司。
 だがしかし、良く考えてみて欲しい。ここで断ったら、どうなるか。絵里加ちゃんは、俺に失望してしまうのではないだろうか。これは、忌々しき事態である。

「分かった!楽しみにしててね!」
「もぅ、苗字くんったら!抽選だし、当たる確率が低いんだから無理に決まってるじゃない!あたしはね、苗字くんのくれたものなら、どんなものでも嬉しいよ?」

 俺は、心に決めた。絶対、新撰組の雷舞のチケットを、絵里加ちゃんにプレゼントする、と。絵里加ちゃんはああ言っているが、どうせなら自分が一番欲しいものを貰った方が嬉しいはずだ。俺は絵里加ちゃんのためなら、社畜にだってなってやる。待っててくれ、絵里加ちゃん。君のその白魚のような美しく、繊細な手に雷舞のチケットを手渡すよ。
 そうして、俺は一段とよく働いた。本職で全力で働き、その後時間が空いていれば日雇いの仕事も入れた。お金は全て貯金(俺は実家住まいだったので)し、自分の欲しいものも我慢した。俺ってば、滅茶苦茶輝いている。そう思った、約三か月間だった。
 十分にお金が溜まった俺は、新撰組の役者絵を(十組買うと、一枚雷舞の抽選チケットが当たるらしい)有り金全てをつぎ込み、まとめ買いした。肝心の雷舞の抽選だが、奇跡的に一枚だけ抽選に当たっていたのだ。俺はその場で飛び跳ね、喜んだ。これで絵里加ちゃんの笑顔が見れる。そう思っていたのに。

「え?雷舞のチケット……?あ、ありがとう……。でも、ごめんね、苗字くん。あたしも、持ってるんだ……。チケット……」
「え……(なん……だと……)」

 絵里加ちゃんの誕生日当日、俺は手に入れた奇跡の一枚を厳重に包装し、彼女に差し出した。しかし、返ってきたのは絵里加ちゃんの笑顔ではなく、申し訳なさそうに懐からチケットを取り出して見せる、絵里加ちゃんの顔であった。くそう、そんな顔する絵里加ちゃん、まじかわいい。許す。だがしかし、この余分なチケットはどうしよう。売ったら高値で売れるかな、と思っていた時、絵里加ちゃんは言った。

「ね、苗字くんも一緒に雷舞行こうよ。楽しいよ!ね?」

 俺の手を握り、首をこてん、と傾げながら笑顔で言う絵里加ちゃんは、小悪魔だった。そんな小悪魔な絵里加ちゃん、かわいい。もちろん、俺は頷いた。だって、俺に残された選択肢は「イエス」しかないだろう。

「ふふっ。じゃあ、楽しみにしてるね!」

 そう言って去っていった絵里加ちゃんの小さな背中を見送り、俺は興味もくそもなかった雷舞当日を指折り数えて楽しみにしていた。今思えば、その雷舞に行かない方が良かったのだ。そうすれば、あんなことにならなかったのに。
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