マギ(連載)
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大きな衝撃が俺の体を襲った。
「う・・・ぐ・・・」
体中のあちこちが熱く、それはだんだんと痛みへ変わっていった。
身動きすら取るのが難しいというのに、俺はなんとか顔だけを上にあげ、対象を睨んだ。
「おーこわいこわい。もうすぐ死ぬっていうのに、悪あがきかぁ?」
「てめえっ・・・!」
「お前の時代はもう終わりだ。お前じゃ俺たちを満足させられない。
俺たちゃ新しい刺激がほしいのさ。お前みたいな中途半端なやつと違って、な」
「くっ・・・!」
そういうことか。俺はこの男に、この場にいる仲間だったやつらに裏切られたのか。
俺は男の後ろにいる元仲間達に目をやった。
ほとんどのやつは俺をざまあみろ、という風に嘲笑っている。何人かは下を向いて俺を見ようともしない。
「明日の朝には見つけてもらえると思うぜ。じゃあな」
男は今にも殴ってしまいたくなるぐらい憎たらしい笑みを俺に向け、去って行った。
この体さえ動けば、と俺は徐々に消えゆく意識をどうにか保とうと足掻くことしかできなかった。
***
俺は死んだのだろうか。その割には変に意識がはっきりしている。
ああ、ここは地獄なのかとがらにもなくそんなことを思う。
それならそれで地獄ってやつがどんなものなのか見てやろうじゃないか、と俺は重い瞼を開けた。
「ここ、は・・・」
最初に視界に入ってきたものは鬼の顔でも、地獄の業火というやつでもなく、白い天井だった。
どうやら、俺の予想は外れたみたいだ。
「(生きて、るのか・・・俺・・・)」
俺は地面に引かれた敷布団の上に丁寧に寝かされていた。
体中に包帯が巻いてあり、自分が生きていることを実感させる。
それと同時に、なぜ自分が生きているのか疑問に思った。
自分は瀕死の状態だったし、自分がいた場所はめったに人が寄り付かない場所なのだ。
「おや、目を覚ましたのかい」
俺が物思いにふけっていると横から声が聞こえた。
声のする方へ顔を向ければ、そこには一見男に見えるような女がいた。
声を聞かなければ女だと認識できなかっただろう。
「あんたが、俺を助けてくれたのか?」
「まあね。といっても、あたしはあんたを手当しただけさ。あんたを見つけたのはうちの娘でね。
あんた、砂漠の真ん中で血まみれになって倒れてたんだよ。
もしこのままあたしらが気が付かなかったら、あんたは今頃砂漠の屍となってただろうね」
俺は女の言ったことに耳を疑った。今、この女は何と言ったのだろう。
“砂漠で血まみれになって倒れていた”
なぜ、俺が砂漠の真ん中なんかにいるのだろう。俺はあの時、廃材置き場で鉄パイプの下敷きになって死んだ
はずなのに。俺は上半身だけを起こした。
「冗談はやめてくれ。砂漠だと?
日本に砂漠なんかねえよ。そのくらい誰だって知っているだろ」
「ニホン?あんたこそなんの冗談言っているんだい。
そんなニホンなんて単語をあたしゃ聞いたことすらないよ。
あんた、少し混乱してるんじゃないかい?」
女は俺の言葉に一瞬きょとん、とした顔になると今度は疑うように俺を見た。
だが、女が日本を知らないというのはその口ぶりから真実だと言うざるを得なかった。
「あっ!ちょ、どこいくんだい!」
俺はたまらなくなって外へ飛び出した。
体中包帯だらけで安静にしていないといけないのは分かってはいたが、それどころではない。
俺は確かめたいのだ。自分のこの目で。
「うそ、だろ・・・?なんだよ、ここ・・・」
俺は一気に頭の中が真っ白になっていくのを感じた。
俺の視線の先にあるものは見慣れた街並みでも、日本でもなく一面が黄色の海だった。女の言うとおり、俺がいる場所は砂漠だった。
周りには数等のラクダや数台の荷台があった。俺が寝かされていた場所はテントのような布で出来たものだった。
「ちょっと!何勝手に動き回ってんだい!?
あんた自分の体の事分かってんのかい?あんたはけが人なんだよ!」
「うっせえ!!」
先ほどの女が俺の肩を掴み、俺をあのテントへ戻そうとする。
俺はそれを振り払って、自分が置かれている状況を必死に理解しようとしていた。その時だ。
「この馬鹿たれ!!」
「いってえ!何しやがるこのクソアマ!」
女が俺の頬を思いっきり叩いたのだ。俺が反論すると女はまた俺の頬を叩いた。
叩かれたところがじんと痛む。
「それが人に助けてもらった時の態度かい?」
「誰も助けろなんて言ってねえだろ!お前らが勝手に俺を見つけて助けただけじゃねえか!
いってえ!何しやがんだ!」
女がまた俺の頬を叩いた。だが、先ほどのように頬がじんとするほどではなく軽くペチン、という程度だ。
「あんたになにがあったのかは知らないよ。でもね、一つ言わせてもらう。
あんたがどうであろうと、目の前に死にかけの人間がいるのに放っておくほどあたしは鬼畜な人間じゃない
んだ。それにね、命を無駄にしちゃなんない。どんな人生であれ、必死こいて生きろ」
女は俺の頬を両手で包むと熱く、優しく語りかけた。
女の言葉を聞いた時、おれは何とも言えない温かいものが、胸の中で溢れていくのを感じた。
俺はこんな感情を、知らない。
「ごめんな、さい」
俺らしくないかすれた声で俺らしくない言葉を言う。
女はその言葉に満足したのか、ふっと優しそうな笑みを俺に向け、俺の頭を撫でた。
それも頭の傷に触らないように、優しく。
「良いんだよ。色々あったんだろ。
ここで出会ったのもなんかの縁だ。あたしでよければ何でも話な」
「俺、は・・・」
俺は女の力を借り、テントの中に戻りながら今までの経緯を話そうと口を開いた。