進撃の巨人(連載)
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※捏造設定、原作と違う部分があります。
翌日、朝食を取るとすぐに訓練が開始された。
訓練生の目の前では、キースが今日行う姿勢制御訓練についての説明を行ってい
る。その後ろには、今回使用するであろう設備が三基並んでいた。
この設備は、立体起動装置を使う上で兵士にその適性があるか、否かを見る物で
あり、この適性検査を通過することができないと「開拓地送り」となってしまう。
つまり、今回の訓練は初歩の初歩、ということなのである。
「・・・以上だ。これから順番に適性検査を行っていく。それから、スレンデス!
貴様は免除だ。今回は補助に回れ」
「え・・・?」
キースは説明を終えると、突然アルの名前を呼んだ。
キースの口から出た言葉はこの場にいる全員を驚かせるには十分で、アルを置いてけぼりに周囲がざわつきはじめた。
アルはキースの言っていることが理解できず、一瞬時間が止まったかのような錯覚に陥った。
「なにをぼさっとしている。スレンデス!他のやつらもだ。ぐずぐずするな!!」
アルや他の訓練生はキースの言葉にはっ、となった。
訓練生はキースの発言に対し、納得していない風であったが、ちりちりとこの場か
ら散って行った。
「・・・・・・」
ぼさっとするな、キースはそう言ったが、アルは自分がなにをすれば良いのか分からなかった。
キースは近くに誰もいなくなったことを確認すると、やっと口を開いた。
「貴様の話はエルヴィンから聞いている。・・・信じがたいがお前が魔法を使うこ
ともな。その時壁外調査の貴様についての報告書も渡された。そこで我々はスレンデスの立体起動と馬術の訓練を免除することにしたのだ」
「だから、こういう形にしたのですか?」
「そうだ。その二つの訓練の間、貴様には基礎トレーニングをつけるように、と言
われている。だが、基礎訓練の間だけだ。応用訓練に入ったら、貴様も参加
してもらう」
「なぜ、応用訓練からなのでしょうか」
「万が一、貴様の正体が分かれば、訓練生の中で混乱を招く可能性がある。その場
合、訓練に支障をきたすかもしれん。それだけはなるべく避けたいのだ」
なるほど、とアルは内心頷いた。
確かに、応用訓練からならば訓練生にとっては負担が少ないだろう。
訓練生の中のほとんどは、あの審議所にいた連中のようにアルに嫌悪を示すかもしれないし、恐怖を抱く者もいるかもしれない。
そのことを考慮した上で、キースはこう決断を下したのである。
「話は以上だ。早く持ち場に着け!」
「はっ!」
アルは素早く敬礼すると、駆け足で姿勢制御装置の元へ向かった。
補助に回っているアルは、まず訓練生の腰のベルトにロープが繋がっているかを確認し、訓練生をハンドルで上に上げる作業をしていた。
その間、自分の番を待っている訓練生はその様子を見ているのだが、そこから送ら
れる視線のほとんどが不愉快なものであった。
「なんであんなやつが・・・」
「すかした顔しやがって・・・むかつく」
「どうせ媚だろ。媚」
キースがこちらまで見に来ていない時、訓練生はぼそぼそと陰口を叩いていた。
それは全てアルの耳にまで聞こえるほどであったから、わざと言っているのだろう
。
普段は温和なアルもこの時ばかりは怒りを覚え、陰口を叩く連中に口封じの魔法をかけてやりたいほどだった。
「(我慢だ、我慢。言わせておけ・・・。ああ、憂鬱・・・)」
それでもアルが冷静でいられたのは、途中から姿勢制御設備の上に澄まして止まっているアディの存在があるからであった。
「なにをやっている、エレン・イェーガ!!上体を起こせ!!」
突然、キースの怒鳴り声が訓練場いっぱいに響いた。訓練生らは、なにごとかと
視線を送った。
「(あれ・・・ぶら下がってる・・・)」
キースが怒鳴った理由は、適性検査を受けている少年にあった。
他の訓練生は(どんなに運動音痴でも)適性検査を通過しているのにもかかわらず
、少年は姿勢を維持することができておらず、逆さにぶらさがっていた。
その場にいた全員がこの光景に己の目を疑っていたが、中には少年に指を差して
笑う者や、馬鹿にした視線を送っている者もいた。
「うわっ、ちょ・・・アディ、どうしたの?」
今まで上でおとなしくしていたアディがふわり、とアルの肩まで降りてきた。
アディはアルになにかを伝えようと、アルの髪を何本かくちばしで引っ張った。
「えっ?無理だよ・・・、そんなこと・・・」
アルにはアディの言いたいことを理解していたが、アルにそれをすることができ
なかった。
****
就寝前の空き時間、エレンは幼馴染のアルミンと共に姿勢制御のコツについて、上手いと評価されていた人物たちに聞き回っていた。
最初に二人は(屈辱的ではあったが)ジャンとコニーに頭を下げる勢いで聞きに行ったが、彼らからは有力な情報を得ることができなかった。
それどころか、彼らは一人だけできなかったエレンをせせら笑い、相手にしていないようであった。エレンは一層みじめな気持ちになった。
次に、エレンとアルミンはマルコの教えでジャンとコニーの他に上手い、と評価されたライナーとベルトルトの元へ訪れた。二人は親身になってくれたが、彼らからも有力な物は得られなかった。
「うーん、困ったもんだな。あぁ、そういえば・・・」
「なにか浮かんだのかい、ライナー」
四人はどうするものかと悩んでいたが、ふとライナーがあることに気がついた。
「浮かんだっていうわけじゃないんだがな。あそこにいるやつに聞いたらどうかと思ったんだ。ほら、今日の訓練で免除になってたやつだ。
俺の予想なんだが、あそこのやつは多分、兵団から直接スカウトされたんだと思う。だから、俺たちよりも実力が上ってことで免除にされたんじゃないか?」
「なるほど・・・一理あるかもしれない」
「たしかに、そうだな・・・」
ライナーの言う、“あそこにいるやつ”とはアルのことであった。
彼はキースに免除、と告げられた時、驚くこともなく平然としていた。まるで、そうなることが当然だと思っているように。
三人はその時の様子を見ていたので、ライナーの予想に納得した。
「よし、俺ちょっと聞いてくる。もしかしたら、良いアドバイスが貰えるかもしれねえ。ありがとな、ライナー!」
「良いってことよ。頑張れよ」
エレンは期待を胸に、意を決してアルの元へ向かって行った。
数分前、アルは呪文学の教科書を読んでいた。
これはアルが暇つぶしとして持って来た本で、この時間が唯一の憩いの時間であった。
「・・・アディ、そんな目で見ないでよ」
アルが本を読んでいる間、アディは言いたげな視線をアルに送り続けていた。
それに対し、アルは周囲の人間に聞こえないように、小さい声でアディに言い返した。
「仕方がないじゃないか。あんな大勢の前で魔法が使えるわけない。それに・・・、僕はあまり目立ちたくないんだよ・・・」
アルに言われてアディは渋々と、少し苛立ちの様子を見せてそっぽを向いた。
アディはアルの言いたいことをよく理解していたし、目立つことが嫌いなことも理解していた。
だが、お節介焼きのアディは、あの少年のことをなんとかして助けてやりたいと思っていた。
「はぁ・・・」
「ちょっと良いか・・・?」
小さくため息を吐きつつ、アルは読書を再開するために、中断したページに視線を向けようとした。しかし、それは頭上からかけられた声で妨げられてしまった。
アルが少し顔を上げると、そこには頭に包帯が巻かれた少年が戸惑い気味にアルを見つめていた。
「(彼は・・・確か今朝の・・・)」
「えーっと、俺、エレン・イェーガーっていうんだ。お前は?」
「アル・スレンデス」
名前を名乗られてやっと、アルはこの少年が姿勢制御訓練で一人だけ通過できなかった少年だと思い出した。
きっと、彼は近寄りがたい雰囲気のアルと少しでも親しめるようにと、いきなり名前を名乗ったのだろう。
だが、アルはそれをばっさり切り捨てるようにわざと本に視線を向け、素っ気なく名前を名乗った。
「アル、教えて欲しいんだ!姿勢制御のコツをさ!お前、今日の訓練で一人だけ免除だったよな?それだけお前が実力あるってことなんだろ?」
アルは一瞬、エレンが何を言っているのか理解できなかった。
本当は立体起動装置を使う必要がない、というのが免除の理由なのだが、エレンは勘違いしているようだった。(本当の事を言っていないので当然ではあるが)
「・・・悪いけど、僕は力になってあげられないと思うよ」
「そんな・・・頼むよ・・・!俺は開拓地に行くわけにはいかねえんだ!!」
アルは必死に懇願してくるエレンに対し、こう言うのが精いっぱいだった。
ふいに、背中につんつんと誰かが突っついてきた。こんなことができるのは、アディしかいない。
アディは、先ほど送り続けた視線と同じ意味のものを、アルに向けていた。
「はぁ・・・分かった、分かったよ、アディ・・・。君の勝ちさ」
「・・・?」
アルは小さくそう呟いた。エレンはなにを言っているのかさっぱりで、首を傾げていた。
「・・・良いアドバイスはしてあげられないけど、力にはなってあげられるかもしれない」
「本当か!?」
「まぁ、多分。ちょっと、君のベルト貸してくれる?明日の朝に返すから」
「あ、あぁ・・・?分かった」
エレンは怪訝な顔をして、ベルトを取りに戻って行った。
全員が寝静まったころ、アルは一人起きていた。
周りを見て、全員が眠っていることを確認すると、もそもそと布団に潜り込んだ。
「レパロ、直れ」
布団の中でアルは小さく呪文を唱えた。
エレンや、その他の人間は気がついていなかったが、実はエレンのベルトは破損していたのだ。
それに気がついていたのは、アディだけだった。だから、アディはなにかとアルに訴えかけていたのである。
しかし、ただのマグルである訓練生たちの目の前で魔法は使えないため、アルは渋っていたのだ。
「アディ、もう僕はこんなことしないよ」
そう言ってアルは寝てしまった。アディは満足気な表情で、それを見守っていた。
***
いよいよ、エレンの今後を決める時がやって来た。これでできなければ、エレンは開拓地送りとなってしまう。負けるわけにはいかない、大事な瞬間だった。
「(結局、昨日は有力な情報を得られなかった。あのアルってやつもベルトについて言ってきただけだったし・・・。でも、俺は絶対にやる!素質はないかもしれないけど、根性だけは誰にも負けねえ!)」
周囲の訓練生は息を飲むように、徐々に上に上がっていくエレンを見守っていた。
「やっ、やった、できた・・・!」
そして上まで上がった時、エレンは逆さまにぶらさがることはなかった。
エレンは適性検査をクリアしたのだ。
「きょ、教官、適性判断は・・・?」
「・・・問題ない。修練に励め」
嬉しさのあまり、エレンは両手を上に上げた。
見守っていた訓練生はそんなエレンを見て、安堵し、喜びの表情を浮かべていた。
「ミカサ、アルミン、先に行っててくれ!」
訓練が終わった後、エレンはアルの後姿を認めると、そこに向かって走って行った。
「おーい!」
「・・・やぁ」
エレンがアルの背中に声を掛けると、アルは止まってゆっくりと振り返った。
「一つ聞きたいことがあるんだ。昨日、ベルトを貸してくれって言ったけど、どうしてだったんだ?」
「君のベルト、壊れてたんだよ。だから直しておいた」
「・・・そうだったのか・・・。その、お前のおかげで俺は開拓地行きじゃなくなった。ありがとな!!」
「どういたしまして」
アルはそう言うと、体を翻して行ってしまった。
エレンはぽかん、としていた。あの表情を崩さないアルが、ふわり、と淡い笑みを浮かべたからであった。
「(あいつ、こんな表情もするんだ・・・)」
エレンはミカサとアルミンに声を掛けられるまで、その場に立っていた。
***
あとがきと補足(読まなくても良いです)
・主人公なぜ、が免除された訓練の間に基礎トレーニングをするのかというと、リヴァイさんがそうするように言ったからです。
主人公は生まれてから一度もまともな運動をしたことがないので、物凄く運動音痴なんです。
・アディは遠くにいたのにも関わらず、エレンのベルトが破損しているのに気がつきましたが、アディは上から訓練の様子を見守っていました。いわゆる皆のおかん、みたいな感じです。
そしてフクロウは遠目が利きます。なので気がついたのです。
前回よりかはちょっと長くなってしまった気がします。区切るのが難しいです。
今回のお話ではエレンやライナーたちが主人公に対して盛大な勘違いをしているところと、主人公がエレンのベルトを魔法で直すところが書きたかったのですが、上手くまとまりませんでした。
次回はオリジナルが入ると思います。
ここまで読んでいただいてありがとうございました!