進撃の巨人(連載)

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 アルが連れてこられた部屋は法廷のような場所だった。



「そのままゆっくり進んで、そこに跪け」



 アルは男に言われた通りに、部屋の中央にある木の柵で囲まれた台の上まで進み、跪いた。すかさず後ろで男が台に棒を差し込み、アルの両腕を拘束した。



「(逃げるわけじゃないんだし、そこまで徹底しなくても良いのに)」



 そっと顔を上げると、目の前には厳格そうな初老の男と、その男を挟んだようにして座っている書記係がいた。
 左右にはアルを化け物のように見つめる人や、興味深そうに眺めている人など、この場にいる全員がアルに様々な視線を向けていた。



「(きっと、僕は危険人物扱いされているんだ。ああ、憂鬱だ)」



 その視線を嫌々感じながら、アルは昔、父親と魔法省の尋問を見に行ったことを思い出していた。あの時のアルははただ見ているだけだったが、まさか自分が見られる側になるとは当時のアルは思っていなかっただろう。



「さて、始めようか。私はダリス・ザックレーと言う。
君の生死を決定する権利は私が持っている。これから、いくつか質問をするが、君は正直に答えるように。下手な嘘は自分自身を滅ぼすことになるだろう」

「はい・・・」



 そうこうしているうちに、アルの今後を決める尋問が始まった。
ダリスの冷酷で、感情の声にアルは思わず身震いした。



「ではまず、君の名前は?」

「アル・スレンデスです」

「年齢は?」

「十七です」



 ダリスは手始めに、簡単な質問をアルにしていった。アルはそれに対し、淡々と答えていった。



「ここからが本題だが、君はなぜあのような場所にいた?」

「それは、僕にも分かりません。気がついたらそこにいました」

「うむ・・・、この報告書によると君は突然壁の外から壁の中へ入ってきたそう

じゃないか。それもあの頑丈な壁をすり抜けるように」

「(壁・・・?壁って何だろう)」

「それについても、」

「そいつは異端児だ!あの神聖な壁をすり抜けるなど、悪魔のする事だ!!異端児が生きていいわけがない!処分するべきだ!」



 アルがダリスの質問に答えようとした時、傍聴席からヒステリックな男の声が響いた。それによってアルの回答はかき消されてしまった。
 法廷の傍聴席にいる人間によってざわつき始める。
中には「確かに処分した方が良いんじゃないか」や、「もしかして巨人なのか」などという声が聞こえた。



「静粛に!ニック司祭殿、出過ぎた真似はしないように。
今はアル・スレンデスに質問をしている」

「(ここで経緯を話せば解決なんだろうけど、マグルに言っても信じてくれないだろうなあ・・・)」


 アルは迷っていた。
正直に自分がこうなった経緯を離して聞かせれば、誰一人として納得する者はいないだろう。なんせ、アルは魔法使いなのだ。マグルに言っても魔法なんて信じないだろうし、(一部理解するマグルもいるが)信用性には欠ける。
 だが、正直に言わないと自分の立場が危うくなる。言うべきか言わないべきか。アルは葛藤に悩まされていた。



「どうしたのかね?」

「・・・信じていただけないかもしれませんが、僕は魔法使いです」


 アルは重い口をやっと開いた。同時に法廷にざわつきが戻る。
本当は魔力を持ったマグルやその関係者以外に、魔法使いや魔法関連については隠しておくべきなのだが状況が状況なので仕方ない。
きっと魔法省がなんとかしてくれるだろう、とアルは投げやり思っていた。




「静粛に!アル、続けなさい」

「はい」



アルは自分が魔法使いで、ホグワーツという魔法を学ぶ学校の学生だということ。
そのホグワーツへ行く途中の、魔法使いしか通れない壁を通り抜けたらなぜかあの場所に立っていたこと。
などの今、自分が話せることをダリスに分かりやすいように話した。
 ダリスは少し考えた様子を見せると、こう言った。



「君の話は現実離れ過ぎている。君がその魔法使いだとして、それを証明する物はどこにある?」

「あります。ですが、今手元に証明できる物がありません。僕が持っていた荷物はどこにありますか?」

「・・・憲兵団、持って来なさい」



 憲兵団、と呼ばれた集まりの中から何人かが慌ただしく法廷から出て行った。
しばらくすると、アルの荷物一式がカートに乗せられて運ばれた。アルのペットであるフクロウは怒った様子で檻の中で暴れていた。



「これかね?」

「そうです」

「では、一時的にアルの拘束を解きなさい」

「ですが総統、彼の荷物は我々が調査しようとしたところ、びくともしませんでした。彼の嘘である可能性も・・・」

「かまわん。これから見れば分かることだ。解きなさい」

「・・・はっ」



 アルは憲兵団の男によって拘束を解かれた。
 アルの荷物は憲兵団がアルのいる台の近くまで持ってきた。
どうやら、アルをこの柵から出したくないらしい。



「アディ、落ち着いて。僕だよ。長い間檻にいれっぱなしでごめんね。今出してあげるから」



 アルはどこからともなく木の棒を取り出した。
その棒で荷物を数回叩くと、今まで堅く閉じられていたスーツケースやカバンがバタンバタン、と大きな音を立ててカートから飛び出し、蓋が展開した。
フクロウのアディは檻の扉が開いたことによって、檻の中から飛び出し、アルの頭上をくるくると回りながら飛ぶとアルの肩に止まった。
 周りからおぉ、と感嘆の声が上がった。
ダリスも(表情が貧しく分かりにくいが)驚きを隠せないようだった。



「これで証明できたことになるでしょうか?」

「うむ・・・だがしかし、これでは証拠不十分だ。我々から見たらただ棒で叩いて開けたようにしか見えん」

「でしたら、そうですね・・・」



 確かに、ダリスの言う通りだ。もしかしたら鞄を特定の回数叩くと開くタイプの仕掛けなのかもしれない、と考える者もいるだろう。
考えすぎだろうと思うが、アルはなにやら疑いを掛けられているのかもしれないし、下手に行動するのも如何なものかとアルは思った。



「オーキデウス、花よ」



 アルは木の棒、もとい杖を上に向けて呪文を唱えた。
するとどうだろうか、杖先から色とりどりの美しい花が沢山咲き誇った。
 アルは続けて、言った。



「ウインガーディアム・レビオーサ、浮遊せよ」



 アルが唱えると杖先に咲き誇っていた花が天井へゆっくり昇って行った。



「フィニート、呪文よ終われ」



 最後にアルがそう唱えると、浮いていた花はふわふわと宙を舞い、床に落ちた。



 法廷に一瞬沈黙が生まれた。誰もがアルの見せた魔法に驚き、見惚れていた。
 だが、すぐにざわつきが戻り始めた。
あれは本当に魔法なのだ、と信じた者もいれば、悪魔だと罵る者もいる。
 アルの魔法はここにいる全員を驚かせたと同時に、混乱を生んでしまったのだった。



「静粛に!
アル、君が魔法使いだということは十分、分かった。まだ目の前で起こった出来事を信じることが出来ないではいるが・・・まぁ良い。
これは君の処遇を決めなおす必要があるようだ。後日、改めて審議を開く。以上だ」



 ダリスは声を張り上げてそう言った。
 アルはまた拘束され、元いた牢の中にアディと一緒に入れられた。



***


 薄暗い牢に戻されたアルはベッドの上で大きなため息を着いた。



「(あの場所には数時間しかいなかったって言うのに、疲れが半端じゃない・・・)」



 フクロウのアディはそんなアルを心配そうに覗き込んでいる。
アルはアディに大丈夫だ、という意味を含めた笑みを向けた。
 基本、アルは目立つことが嫌いだ。特に人の嫌な視線を浴びることは苦痛に値する。
たかが数時間の尋問であったが、あの場にいた全員の視線を受けたアルは精神的に参っていた。



「ああ、これからどうなるんだろう・・・」



 アルはそう弱弱しく呟くと、そのまま眠ってしまった。




***
補足(読まなくても良いです)


・主人公はまだ自分が異世界トリップしたことに気付いていません。

・最初から主人公が魔法を見せなかったのは、未成年者の不適切な魔法の使用を取り締まる法律があるからです。最終的には腹を括って使用しました。

・アディ(フクロウ)が主人公と一緒に牢屋に入れられたのはアディが憲兵団の兵士に噛みついたからです。

・呪文についてはウィキペディアさんを参考にしています。
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