Details of beauty (Story Book)

□After the performance Side:Mao
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本当は、皆に言ってしまいたい。


友達、仕事仲間、ファンの人に…



「僕の愛してる人は……」



部屋の中で小さくつぶやく。


舞台では堂々と言えたあのセリフ。


その後を続けたくても、言えない。


「僕の愛してる人は、    」


そこに、彼の名前を入れたいのに…




2回目の公演が終わって、彼が駆け寄ってきた。


「まお、お疲れ!今日も楽しめて良かったな!」


相変わらず眩しくて、青空のようなその笑顔。


「うん!また明日からの公演も気合入れてやらなきゃね!」

「そうだな!……本当、お前はどんどん成長してくよな……」


彼が、一瞬顔を歪めた。


「…え?」

「いーや、何でもない!ほら、もたもたしてないで、さっさと帰るぞ!早く着替えちまえ。」

「うん、翔さんのニコ生見なきゃだしね!」

「あー…うん、そうだな。」


僕は、急いで着替え始める。


皆も急いで着替えている。

この後、仕事だったりプライベートだったり、個々に予定があるのだろう。


「あのさ、まお。今日、部屋来ないか…?」

「え、今日…?」


何か、あるのだろうか。


…そうだ。

ついこないだ……。


忘れていたわけじゃない。


ただ、前からあまりにも近すぎたから
そういう関係になっても
あまり変わらないから、実感がわかないのだ。


…今は、彼が部屋に誘うことに対して
何か勘ぐったり、心配する必要はないのだ。


「…うん!行く!」

「よし、待ってるから、早く着替えてこい!」


僕は急いで着替え始める。

その時、気付いたのだ。


「あ…痕……」


この間の、痕……。


身体の左側に、しっかりと、彼の痕跡が残っていた。


それを見つけて、どうしようもなく嬉しくなってしまった僕は、
どこかおかしいのだろうか。


「まーおー、まだー?」


急かす彼の声が耳に入って、緩んだ口元を直して
急いでシャツを着る。


「お、やっと終わったか。ほら、行くぞー」


そういって、彼はこの場を後にする。


「あ、ちょっと待ってよ!」


気付けば、僕はいつも彼の背中を追いかけている。


いつもいつも、少しでも彼に近づきたくて。


彼の匂いを感じたくて、同じ匂いを纏ってみたり……。



気付けば、もう駅のホームだ。


終演から30分くらいだから、まだ人は少ない。

ホームに入ろうとすると、声が聞こえた。


…多分、今日見に来てくれた人達。

僕の名前が、はっきり聞きとれた。


そんな時、彼から声をかけられた。


「まお、先行って。」

「…え、なんで…」

「ほら、早く。」


彼は微笑で僕の背中を押す。


唯一苦手な、彼の大人な微笑。


優しいのに、どこか怖くて
それと同時に、僕を見ていない気がして。


僕は、言われたとおりに歩きだした。
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