Details of beauty (Story Book)

□[Another Story]Desire Side:Mao
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僕は、どれだけ彼を追い詰めていたのだろう。


想像するだけで、苦しくて、痛かった。



明日で、稽古もラストだ。


もうだいぶ仕上がっていて、ゲネに上げるのが楽しみだ。


そう思うと同時に、凄く寂しくなった。


このカンパニーとのお別れが近付いてきたから。


…彼との仕事が、また、一つ終わってしまうから。



「まーおくーん。今日稽古後に飯行かない?」


稽古の休憩、翔さんが話しかけてきてくれた。


「ご飯かー、はい、もちろん!」

「これが終わったら、まおくんと話す機会も少なくなっちゃうしさ、今のうちにと思ってさー。」

「やっぱり、…寂しいですよね……」

「俺と稽古で会えなくなっちゃうのが?」

「違いますよ!いや、それもそうなんですけど!」


こんな風に冗談言い合えるのも、もうすぐ終わっちゃうのか。


やっぱり、寂しい。



「お疲れ様でしたー!」


今日の稽古が終わって、皆が帰っていく。

役の話をしながらだったり、他の仕事の話だったり。


それは、いつも通りの光景で。



「まおくん、準備出来たー?」

「はい!」

「じゃあ行こー!俺、凄い良い所見つけちゃったんだー!」


そう言って、稽古場を後にする翔さんを
小走りで追い掛けた。


彼の視線に、少しも気付かずに…



「いやー、うまかった!可愛いまおくんとご飯食べれて幸せだ!」

「何言ってるんですかー。」


大好きな先輩との楽しい一時は、あっという間だった。


「じゃ、俺はここで。また明日なー。」

「はい、明日もよろしくお願いします。」


翔さんが背を向けて歩き出した瞬間、僕の携帯が鳴った。


「…大ちゃん……?」


思わぬ人の着信に、一瞬、頭が真っ白になった。


「…もしもし。大ちゃん…?どうしたの、こんな時間に…」

「まお、今どこにいる?」

「え、稽古場の近くの店出たところだけど…」

「俺の家の最寄り駅、分かるか…?」

「……?うん、分かる…けど…」

「迎えに行くから、今から…来てくれないか?」


…いつもの彼じゃない。


声色はいつもの優しい彼のはずなのに。

何かが、違っていた。


行かなきゃいけない。


そうでなければ、僕は後悔する。


直感で、そう感じた。


「今すぐ…今すぐに向かうから…!」


切れた電話を握りしめて、僕は走り出した。
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