Details of beauty (Story Book)

□Valentine Story Side:Mao
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何、嬉しそうな顔してんだよ…



バレンタイン。

女の子達は、友達とお菓子の交換をして楽しんだり
手作りのお菓子に特別な意味を込めたりして。


そんな一日。



僕は、近々初日を迎える舞台の稽古だった。


もちろん、彼も一緒に。



「まおくーん、はい!これ!」

「あ…、やった!ありがとうございます!」
 


女性キャストからは僕の大好きなお菓子が。


お菓子が沢山で、本当に幸せな一日。



……だったはずなんだけど。



「渡辺さんもどうぞー!」

「あ、ありがとうございます!チョコレートですかー!」

「はい、ベタにチョコレート!渡辺さん甘いの大丈夫ですかー?」

「もちろん、大好きですよ!」


そう言って笑う彼を見て、無意識に睨んでしまったんだ。



今日の稽古後、大ちゃんが皆で写真を撮ろうと言い出した。



皆で……か。



「ほら!座長真ん中でしょ!」

「じゃあ、女の子達大ちゃん囲んでハーレム状態にしようよ!」


皆、楽しそうにわいわいしている。


いつもなら進んでそのところにいくのに、今日の僕はどうもおかしい。


僕は、すっかり出遅れてしまった。



写真を撮り終わって、皆帰り支度をして
お疲れ様といつものように帰っていく。



「まーお!今日、幸せだっただろ!」


いつものように、明るい笑顔の彼が声をかけてきてくれた。


なんとなく、今日は遠い存在に感じてしまっていたから
彼と話せたことが素直に嬉しかった。


それなのに、僕は……


「うん、まぁ。」

「ん?なんかあったか…?」

「何でもないよ。大ちゃんこそ幸せそうだったね。」


ちがう、違うよ。

何でこんな言い方しか出来ないんだよ。


「まお、何か怒ってる?」

「…え?怒ってる?どこに怒る理由があるの?大ちゃん、皆に囲まれて、楽しそうで。良かったねって言ってるんだよ?」


何言ってるんだよ、僕。

違うじゃないか。

こんなこと、心では思ってないじゃないか。


「じゃあ、何でそんな」


彼が言いかけたところで、突然驚いた顔をした。


僕の目からツーっと流れてきたものに
僕自身も驚いてしまって。


「まお…さ。今日、電車だろ?ほら、一緒に帰るぞ。」

「…でも……」

「ほら、行くぞ!」


僕の荷物を軽々しく持ち上げて稽古場を出てしまった彼の背中を
小走りで追い掛けた。


やっと春が近づいてきたと思ってたのに、
外はまだまだ凍えるような寒さで。

東京とは思えないくらい、星がくっきり見えた。


「……大ちゃん、さっき…ごめん。本当は…」

「まお。はい、これ。」


僕の晴れない顔とは真逆の、晴れ晴れとした笑顔の彼が、小さな箱をのせた手を差し出してきた。


「……チョコボール…?」

「まおはさ、これが一番好きだろ?」


確かに、その通りだ。


大ちゃんは、よく人を見ている。

僕の好きなものも、全部、分かってくれてる。


でも、でもね…大ちゃん。

大ちゃんからだったら、それはどんなものでも、一番好きなものなんだよ。


「……ありがとう、大ちゃん。」

「おう!…あと少しだな、初日。」

「…そう…だね……」

「これが終わってもまた、2人で一緒に芝居したいな。」

「……うん。」


本当は、このままずっと、一緒に芝居したいよ。


もっと本音を言っていいなら…
あの時の、恋人役だった僕らの時のままで、止まっていたかったよ。


「とにかく、このまま初日まで、全力で楽しもうな!」


そう言って、青空みたいに澄んだ瞳で笑って先を進んでく。


そんな彼の背中を見て、僕は思ったんだ。



大ちゃんは、よく人を見ている。

僕の好きなものも、全部、分かってくれてる。


だったら、本当は、僕の一番欲しいものを気づいてるんじゃないかな。


想うだけで幸せになったり、辛くて苦しくなったりするけど、
一番、僕が欲しいもの。


「……大ちゃん。僕は、大ちゃんがいいよ。」


冷たい風に消されてしまった僕の呟きは、きっと彼の耳には届いていない。


でも、今はそれでいいんだ。 


いつか、彼の好きな青空の下で
ちゃんと伝えるから。


だから、もう少し、このままで。


「待ってよ大ちゃん!」


僕は、彼の背中を追い掛けた。

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