Details of beauty (Story Book)

□Side:Mao
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あの日、僕がミュージカルの初日で失敗してしまって
悔しくて、たまらなくなって
誰もいなくなった舞台裏で泣いてしまった日。


気持ちを切り替えようと顔を上げると
壁に寄りかかった彼の姿が見えた。


僕に背中を向けて、少し気づかいげに。



見られちゃってたんだ…。



多分、忘れたタオルを取りに来たんだろう。


僕から少し離れたところに、いつも彼が使ってるタオルが置いてあった。



きっと、気を使ってくれたんだ。


僕が、負けず嫌いなのを知ってるから。


こんな風に泣いてるところなんか見られたくないって
そう思っていることを知ってるから。



…大ちゃん……。



俯いた顔を上げると、彼がこっちに向かって歩いてきていた。


「まーおー。何やってんのー、皆もう帰るよー。」


そんな風に、何も見なかったかのように。


彼は、そういう人だ。



正直、皆に迷惑かけてしまったから
楽屋に戻りにくかった。


「俺、タオル忘れちゃってさ。まおもどうせ忘れもんだろ?」

「え…?」

「見つかったなら、さっさと楽屋戻るぞ。皆と、一緒に帰ろう。」


何も言わなくても、分かってくれて
僕が行きやすいようにしてくれている。


なんて、凄い人なんだろう。

こういうのを、尊敬するべき人って言うんだと思う。


「あ、そうだ。」

「何…?」

「明日も、楽しもうな!」


そこには、いつもの優しい彼の笑顔があった。


頑張るのではなく、楽しむのだ。

演技とは、そういうものだ。


そう、教えてくれたのは彼だ。



なんだか…兄がもう一人できたみたい。



そう思いながら、彼の背中を追いかけた。

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