にんたま

□君が知らない君のこと
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多分きっと、彼は私のことを嫌っているに違いない。





私含め、同級生は大概皆、我が強い人間ばかりである。
自分が優先、自分が一番、お互い協力はするが、その中でも自分の意見はしっかり通すというような超個性派揃いの中で、一人、毛色の違うやつが混じっている。
そいつも、確かに個性的なのだが、いかんせん、自分のことより他人を優先する質の人間なのだ。
生真面目なやつで、保健委員だからというだけで誰彼構わず怪我や病気の手当てをしている。
いつもにこにこと朗らかでいて、体質らしい不運に見舞われても、「不運だ」とぼやいたのちは、何事もなかったかのようにまた、普段と同じく微笑んでいる。
基本的には優しく、しかし時には厳しく指導する姿に、彼を慕う後輩は少なくない。
あまり出来がよくない、と周りから言われているようだが(そして、本人もそれを認めているようだ)、薬学に精通しているし、お得意の不運さえなければ、忍術、体術の腕はかなり優れているほうだと思う。
割となんでも卒なくこなす優等生に見えるが、器用貧乏なのだろう、周囲からの彼の評価は著しく低い上に、本人でさえ、自分を卑下している節がある。
しかし、だからといって、嫉妬心をあからさまにしたり、捻くれた態度を取らず、他人の優れているところは素直に認め、褒めることができる。
彼を一言で表す際に、人徳者という言葉ほどにぴたりと当てはまるものはない。
おおよそ、私とは大違いである。


「おう、伊作も食堂に行くのか。」
「…うん、そのつもりだったんだけどね。」


地面に向かって声をかけると、ぽっかりと空いた穴の中から、困ったように眉尻を下げて笑う伊作が顔を出した。
後輩が気まぐれに仕掛けている落とし穴の被害に遭うのは、多分、彼にとっては日常茶飯事なのだろう、慣れた動作で軽々と穴から脱出してきた。
いやあ、不運だった、と呟きながら、制服に付いた泥を払い落としてゆく。


「小平太も今から夕餉?珍しいね。」
「ああ、ちょっと、遠出しすぎてな。」
「またトレーニングしてきたんだ。本当凄いね、君。」


僕も小平太のこと見習って、ちょっとは鍛錬しようかな、と伊作が言ってのけた。
嫌味のない、屈託のない笑顔であった。
心の底から、尊敬している、と、顔に書いてあるような。
万人受けしそうというか、まるでお手本のような、しかし伊作らしくない表情で、酷く違和感を覚える。
彼は私といるとき、時々、この表情を作る。
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