まぎ

□掃除をしよう!
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出会ったきっかけは、後輩だった。
街で偶然見かけた後輩に声をかけたところ、遊んでいたらしく隣にいたのだ。
それまでは、自分で言うのもなんだが、割と面食いな方だった。はっきりとした顔立ちの子がタイプだった。
にもかかわらず、どうしてだか、この、そばかすの散った印象に残りづらい顔の子に、理由もなくときめいていたのだから、これはもう、運命か何かだ、と思った。


「今度、うちの掃除でもしてくれないか。」


平淡な表情を浮かべる男に、努めて笑顔で問いかける。
後輩の助けもあり、どうにか仲良くなって(仲良くなったと思いたい。)、連絡先まで手に入れて、今ではもう、後輩抜きでも会える間柄になった彼をじっと見つめる。


「嫌です。」
「なんで。」
「私は貴方の家政婦じゃない。」


自分で片すか、業者にでも頼みなさいな、と言う男の顔は、酷く不機嫌そうなのだけれど、もうその顔すらも可愛く見えてしまう程に、自分は末期なのだ。
そこをなんとか、嫌です、頼む、断ります、の問答を繰り返す。
確実に男は苛立ってきているけれど、俺としてはこのくだらなさが楽しい。
楽しいし、こんな馬鹿らしいやり取りに律儀に付き合うこいつが可笑しくて可愛いことこの上ない。
いい加減面倒くさくなったのだろう、男はああもう、と投げやりに呟いて、ため息を吐いた。


「しつこいですね、もう。分かりましたよ。」


掃除すりゃあいいんでしょ、と、半ばやけくそで言った男に、最上級に上機嫌な顔を作る。
なんだかんだ、押しに弱いのだ、こいつは。


「それでこそ俺のジャーファル。」
「あんたのモノになった覚えはない。」


コーヒーを啜りながら、手元にあったレポート用紙の束で俺の頭を叩く。大学生の中でも、彼は勤勉な方だ。
遊びに来いと言えば、どれだけ問答をしたところで、こいつは絶対に頷かないだろう。
大した理由も用事もなく、誰かのテリトリーに侵入することを良しとしない。
それはまた、自分の領域に関しても当てはまることで、この男と会うのは、大概がファストフード店や喫茶店ばかりであった。
この男はどうせ、俺といようと視線はレポートか教材か、はたまた小難しそうな小説だったりするので、文字さえ読めれば場所なんぞ何処でもいいのだろうが、俺としては、落ち着いて話せる、二人きりの空間になりたいのだ。
こんな人の多い場所じゃあ、口説くに口説けない。


「それじゃあ、今度の日曜なんてどうだろう。」
「ああ……、そうですね、二時からであれば大丈夫です。」


その日は朝からバイトが入ってるので、と、俺を見ることもなくそう言う。
そういえばファストフード店で働いているのだっけ。
遊びに行くからどこの店舗か教えてくれと何度も言っているのに、ちっとも口を割らない。制服姿で働くジャーファルくんを見たいのに。
とはいえ、とにかく約束を取り付けたのだ。日曜日までに、引かれない程度に部屋を散らかしておこう。
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