まぎ

□arrogance
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神様は不公平だ、と思うけれど、でも、あまりに公平にしてしまうと世界が成り立たないのも事実だと分かっているので、文句は口にできない。
人目をひく整った容姿に、巧みな話術、人懐っこい性格をした男は、入学当初から当たり前に人気者だった。
彼になりたいわけじゃない。人気者なのが羨ましいわけでもない。
でも、彼の隣にいるには、私というのはあまりに貧相すぎて、不相応なのだ。
どこにでもいそうな特徴のない顔は、そばかすのせいで余計に地味さを演出するし、生まれつきの白い髪の毛は、昔っからからかいの対象にしかならない。
取り柄といえば勉強とちょっとだけ長けた運動能力だけで、それさえ別に、誰かの関心をひくほどではない。友達が多いわけでもない。むしろ少ない。ほとんどいない。
それだのに彼の横に、まるで付き人みたいにいつも突っ立っているのだから、一部の人間からは疎ましく思われている。
それも仕方ないだろうとは思う。私だって、私みたいなものが彼の一番近くにいることが不可解なのだから。
席について小説の小さな文字を目で追う私の肩に手の平を置いたまま、彼はといえば数人のクラスメイト達と楽しげに談笑をしている。
とにかくいつでも私のどこかしらに触れていなければ我慢ならないらしい。
私の机を中心として笑い声は起きているのだけど、会話の中に私は紛れていない。
その中で全く声を発しないくせして、シンの手の平に触れられ、存在を許される私を、幾つかの子達は不可解そうな目をして、少数は忌々しげに舌打ちする。


「そうだジャーファル、今日はお前の部屋による。」
「昨日も来たではないですか。」
「いいじゃないか、別に。居心地がいいのだから。」


私だって、別に、来るのは構わないけど、出来たらそういったことは教室なんぞで宣言しないでほしいのだ。
この人は悪意だとか敵意に対して鈍感だ。
そりゃあ、幼い頃から周りに愛されて育ったのだろうから、そういったものに慣れていないのだろうけど、でも、私は敏感に感じ取れる。
貴方を愛するが故に貴方を独占したいと考える人はごまんといるのだ。私もそのうちの一人なのだけど。
考えるが故に、私の存在がうざったく感じる人も、また多い。
私が彼に負けず劣らず美しくてカリスマ性があったならば、周りだって、まだ少しは納得してくれたのだろう。
でも、残念ながら私は彼とは真逆の、対極的な人間だから、認められはしないのだ。
痛いほどの視線を、ため息で受け流す。
その仕草さえも苛立たせる理由の一つとなっていることを理解しているが、彼らが私を鬱陶しいと思うのと同じ程度に、私も彼らの視線を鬱陶しく感じているのだから仕方ない。


「それより、早く席に戻ったらどうです。なんで私の席で屯するのですか。」
「そりゃあ、お前の近くにいたら落ち着くからだ。悪いか。」
「私は落ち着きません。」
「お前がどう思おうと俺は俺の好きにする。」
「この暴君め。」


ぎり、と歯噛みすれば、可笑しそうに私の頭をぽんぽんと叩く。
その手首を引っ掴んで捻りあげてやろうか、と、思ったけれど、丁度鳴ったチャイムによってその手が離れたので、実行はしなかった。
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