虹の旅路

□63,これからのこと
1ページ/2ページ



「ふふ、本当に懐かしいわね
もうすっかり大きくなっちゃって」

なんだか感傷に浸ってしまった

「僕なんて優木が小さい時近くにいられなかったんだから寂しいもんだよ」

「あはは……」

そればかりは仕方ない
優木と奏が生きる為にはそうする他なかったのだから

『優木お嬢様の作る料理も是非食べてみたいです』

「ええ」

「あ、僕も食べてみたいなぁ」

まさかお母さんの手持ちにそんなことを言われる時が来るとは
嬉しい様な、むず痒い様な、不思議な気分だ

「……機会があればね」

少し眉をひそめて、笑った


「さあ、出来たわよ」

あまりにも数が多いからポケモン達はフードで

紅牙「ふむ、下僕がいつも作る料理と味付けが似ているな」

「なんで人間用の食べてるんだ紅牙」

紅牙「俺様は原型だと身体が大きすぎるからな」

最もなこと言いやがって

「まあまあ、いいじゃない
僕も優志も食べてるんだから」

「そうだけど……」

優志「お前だって半分ポケモンだろ?
フード組に混ざったらどうだ」


「遠慮しておくよ」

優志の酷い発言を軽く流して、久しぶりの奏の手料理をいただく
本当に久しぶりだ

「あ、そうだ優木」

「ん?」

今日のメインディッシュであるハンバーグを頬張ったまま、優の言葉に耳を傾ける

「明日から暫く特訓に付き合ってもらうから旅は中断ね」

「うぇ?聞いてないよ」

「今言ったよ」

あまりに突然のことに、優木は呆然とする

「特訓って……どんな?」

優志「まあ、ワタシが教えられないミュウの能力のことだろうな」

「うん、ミュウにはミュウにしか扱えない能力があるからね
あるのとないのとじゃあかなり違うだろうし
それに、ミュウになれる様になったからには僕も誤魔化しが効かないしね」

誤魔化し、とは一体なんのことだろうか
なんだか話が見えない

「伝説や幻のポケモン達と会ってきてほしいんだ」

「え?」

「面倒だろうけど
僕も面倒だし」

いや、だから話が見えないってば

「僕や優志は一応殆どの伝説や幻のポケモンと顔見知り以上なんだ」

「……つまり、挨拶をしてこいと?」

ご近所さんみたいに?

「まあ、そんなこと
一応伝説、幻のポケモンの枠組みに入っちゃうから」

一応……一応ね……

「人の血が入ってるから?」

「血が入ってるとはいえ、姿が人間だったから誤魔化してたんだ
あんまりあの世界に入らない方がいいと思ってね」

優志「まあ、間違いなく優の子として見るだろうからな」

「ほら、僕って優秀だから?
優木が比べられたら可哀想だと思ってー」

わざとらしく優秀と言う優に、優木は苦笑いを溢す

優志「それで、なぜ挨拶に行くのに特訓が必要なんだ?」

「戦闘になるかもしれないから
あ、そうそう
ホウオウは僕がちゃーんと、お仕置きしておいたからね」

ああ、御愁傷様……

「いくら優志が一緒でも、やっぱり心配だからね」

優志「力を付けておくに越したことはないな」

全くもってその通りだろう
今の優木には伝説どころか、まだまだちょっと手練のトレーナーにも敵わないだろう
戦ったことはないけど

「ポケモン達は私が見ておくから安心して」

「……判ったよ
ご馳走さま」

せめて自分の身は自分で守れるくらいにはならないと
自分にそう言い聞かせる

食べ終わったお皿をシンクに片付け、そのまま皿洗いを始める
最早癖だ

「……随分少食になったわね優木」

「え?そうかな」

流石に六歳くらいの自分がどれくらい食べていたかなんて記憶にない
でもそれくらいの子供の食欲なんて、たかが知れてるだろう

朝日『昔より少食なんですか?マスター』

「……節約ばっかりしてたからかなぁ……」

「そうよね……あれだけじゃ足りなかったわよね……」

「寧ろどうやってあそこまでお金用意出来たの?」

優木が一人で暮らせる様に、およそ十年分のお金を置いていったのだ
そのお金の出所が気にならない筈がない

「実は宝くじで……というのは冗談で

私の親…… まあ優木の祖父母ね
その二人が遺していったものを売ったりしてお金に換えたの」

「え……そんな大事なもの……」

「もう向こうに戻る予定もないし、大きいものはあっても見ることすら出来ないのよ?
だったら優木に使ってもらおうと思ってね」

祖父母か……

当時の自分は、奏以外の肉親を知らなかった
祖父母の存在も、考えたことすらなかったものだ
それくらい日々をただ精一杯生きていた

「ご挨拶も出来ないで亡くなられてたなんてねえ……ちょっとショックだったよ」

「私がこの世界に来る少し前にね、交通事故で亡くなったの」

きっと当時の奏も相当ショックだっただろう
自分一人残して、両親が逝ってしまったのだから

優志「優の親はいるのか?」

「え!?突然だなあ……(汗)」

優志の突然の質問に、優は困った顔をする
確かに気になる話ではある

「うーん……僕にも判らない、とだけ言っておくよ」

「判らないのか」

「だって何年生きてるかも判らないんだもん」

ミュウってそんなに長生きなのか
自分が何年生きているかも判らない程長い時を生きているなんて

「じゃあ僕の寿命ってどれくらいなんだろう……」

恐らく何千年も生きるミュウと、百年程しか生きられない人間
その間に生まれた優木は、どれだけの時を許されているのか
それは人としては途方もない時なのか
ミュウとしてはあまりに短い生なのか

「それはもう、生きてみないと判らないねえ」

何せ前例がないから

優はそう言って笑った
あまり笑い事じゃないんだけどなあ……

一つ自分の謎が増えてしまった優木は、一つ大きめのため息を吐いた



.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ