虹の旅路

□57,星空キャンプ
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朝日『マスター……一体何があったんでしょう……』

優志「……能力の暴走……
優木はそれに近い状態になっていた」


さっさと逃げていったロケット団は放置し、仲間達は優木を助けることを優先した
ガラスから救いだした優木は、ぐったりと意識を失っていて何処か苦しそうだった

今は山道の片隅で、人が来ない様なところを探しだし休憩している

紅牙「もしかしたらあの時の電波か?
俺様が暴走しかけた」


優志「恐らくそれを改良したものだろうな」

焔駆『ゆきちゃん可哀相……』

今はまだ眠ったままの自分達の主人を見て、各々ため息を一つ吐いた

苦しそうに魘されたまま眠り続ける優木を、皆酷く心配している

雷鳴『もっと早く助けられればな……』

翡翠『そんなこと言ったって仕方ないじゃん』

そっと優木に寄り添い、翡翠は言った
翡翠の体温に何かを感じたのか、優木の表情はさっきまでよりも穏やかに変わる

すがり付く様に翡翠に自分から寄ってきて、本当に寝ているのかと疑問に思ったが、それきりまた動く気配がなくなってしまった

翡翠『優木だって、そうやって自分達責めるのはやめてくれって言うよ』

砂塵『……おれもそう思う』

雷鳴『お嬢はそういう優しいやつだもんな』

山下りの前にいろいろ買っておいたのが幸いした
既に赤く染まった空の下で、食事の準備を始める
優木もお腹が空いたら起きてくるだろうなんて、皆いつもの調子を取り戻していった

雷牙「結局あいつら何が目的なんだか」

焔駆「さあねえ」

今回は皆で食材を切って、ゴロゴロと鍋に放り込む
ルーを入れてしっかり煮込めば、キャンプのもう一つの定番であるカレーの匂いが立ち込める
その美味しそうな香りに、皆鍋に釘付けだ

砂塵「肉もっと入れようぜ」

月光「ばっか、入れすぎだ砂塵」

砂塵「つっきーだっていっぱい食べるじゃん」

月光「そうだけど……!」

食事となると、どうしても騒がしくなるこの二匹
そんな喧騒の中でも、なかなか目を覚まさない優木

朝日「ていうか後から増やすのはやめてください」

いつも近くにいて、暖かく見守ったり冗談を言ったり
小言を言ったり、笑ったり
皆の中心にいる優木は、今は眠っている
そのことに少なくない寂しさを感じながら、出来上がったカレーが皆に配られていった



頭の中で、あのフラッシュバックの様な映像が、ただ繰り返し流れていた

沸き上がる能力の波は、容赦なく自分を飲み込もうとして、恐かった

繰り返される夢の中、ふと温もりを感じた
それにすがり付く
そうしたら、夢から逃れられる様な気がして
やがて、その温もりは翡翠だということに気が付く
夢は溶ける様に消えていき、深い睡眠に切り替わった



立ち込めるカレーの匂いに、意識が浮上してくる

身体は重いけれど、瞼は自然と開いていく

ミュウの身体で丸まって眠っていた自分の近くに、カレーを食べる仲間達の姿がある

重い身体を起こそうとすると、苦しさに呻く

翡翠「起きた?」

その声を聞かれてか、翡翠に声を掛けられて、今一番聞きたいことが口をついてでる

『ここ……は……?』

優志「安心しろ、ロケット団はもういない」

気だるい身体にさっきよりも強く力を込めて起き上がろうと試みる

しかし、優志に無理するなと止められて力を抜いた

焔駆「ゆきちゃん、カレー食べる?」

『……ごめん、食べる気分じゃない』

飛由「食べないと元気でねぇぞ」

いつもの笑顔を浮かべてやって来る仲間達にも、優木はいつもの様に笑うことは出来なかった
顔を伏せ、首を横に振る
食べられない、食べる気分じゃない

身体を丸めて、己の心に燻ったままの恐怖と向き合っていた

翡翠「……優木……」

そんな優木を心配してか、翡翠はカレーを途中で置き去りにして原型に戻った
当たり前の様に優木に寄り添い、温もりを共有してくれる

優木は普段なら考えられないくらい、その暖かさに自分から強く擦り寄った

翡翠『大丈夫だよ、もう何も怖いことなんてないから』

翡翠はそう言って優しく優木を受け入れてくれた

恐かった、自分の能力が
飲み込まれそうになったあの時の恐怖が、染み付いた様に離れなかった

力は、未だに自分の中で強く押し込めたまま
優志はきっと、そのことに気が付いている

仲間達は少し申し訳なさそうに食事に戻ったというのに、紅牙はそんな優木の様子をずっと見ていた
同じ電波に当てられ、暴走の片鱗を見た紅牙
しかし彼はいつも通りだ、優木の様に怯えてしまったり等しなかった

それがまた、優木は自分自身の弱さを思ってしまっていた
紅牙の様にいつも通りでいられない、仲間達に心配ばかり掛けてしまう自分が嫌で仕方なかった

そんな気持ちを誤魔化す様に、一層翡翠と触れる小さな手に力が入る

紅牙「優木」

そこに聞こえた低い声が、自分の名前を呼ぶ
反射的に身体を振るわせ、声の主を見上げた
擬人化した姿でこちらを見下ろす紅牙は、言葉を選んでいる様で思案顔をこちらに向けている

少し、話しづらいのかもしれない
優木の顔は、恐怖が隠れていなかったから、流石の紅牙も気を遣っているのかもしれない
どちらでも、どちらもだとしても、紅牙はただ自分の気持ちを言葉に変えていく
それで、出来ることなら優木が少しでも立ち直れる足掛かりになればと
普段あんな態度をとっていようとも、紅牙にとって優木は大事な存在なのだ
優木にとっても、それはもう判りきったことで、周知の事実だった

紅牙「怖いのか?力が」



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