虹の旅路

□33,飛由とオニスズメ
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「おはよー、ご飯持ってきたよ」

ウツギ博士の声に、起きた皆の顔が一斉に同じ方向を向いた

ウツギ博士がご飯を配るなか、欠伸をする仲間達
欠伸は移ると言うが、仲間達の様子は正にそんな感じで、可愛らしい

床で雑魚寝をしていた優志は片目でその様子を見ていた

「ごめんねー、ベッドが一つしかなくて」

優志「…いや、慣れてるから」

「優にいに気を使わなくていいですよ」

ベッドに腰掛けて、手で髪を少し整える

優志も身体を起こして優木の隣に座ってくる
何となく怖くなって距離を取ると、また詰められる

優志「なんで距離を取る」

「何で詰めてくるの」

ベッドの端までそれを繰り返してお互い軽く睨み合う

「優にい直ぐ暴力振るうから怖い」

優志「心外だな
お前が馬鹿なことばかりするからだろう」


終いには腰に腕を回してくる

誰だこいつ

優志「意外と括れあるのな」

「う、煩い
くっつくな…!」

無駄にイケメンだから流石に僕でも動揺するぞ

優志はニヤニヤ、他の皆は呆然

誰か助けてよ…!

いつの間にかウツギ博士も居ないし

優志「お前おもしれえ」

「こんのドSめ…!」

優志「ワタシには誉め言葉だ」

雷鳴『オイラもやりてぇ』

そんなこと言ってないで助けてくれ
とは言ってもこのドSに敵う奴なんていなかった

くそぅ…

淡里『おい下僕、食わせろ』

「…はいはい」

淡里に助けられた

でもやっぱりちょっと癪だからポケモンフーズを淡里目掛けて軽く投げる

淡里『投…げ…る…な…!』

言いながらもしっかりキャッチして食べてるし

焔駆『あーあ、ワタシもゆきちゃんに抱きつきたーい』

翡翠『原型じゃ無理だもんね』

砂塵『主ー、おれも食べさせてよ』

なんか急に皆が甘え出す

可愛いな



朝御飯が終わる頃、飛由が背中を向けて窓に足を掛けた

飛由『んじゃ、行ってくるわ
近くで飛んでっから何かあったら呼んでくれ』


「そっか、判ったよ
晩御飯には帰ってくる?」

飛由『そのつもりだ』

振り返っていつもの笑みを見せてくれた飛由にこちらも苦笑いして返した

「行ってらっしゃい」

それを合図に、飛由は飛び立っていった

やはり少し寂しいものを感じる

翡翠『…なんか昔を思い出すねぇ』

ニヤニヤしながら、翡翠が呟く

「ん?」

一体何の話しだろうか

翡翠『昔にも飛由と優木の夫婦みたいな会話があったからねぇ』

「え…ちょ…、その話しはやめよ?(汗)」

思い出されたのはコンテスト前にした会話だった

ニヤニヤとこちらを見る翡翠を何としても止めたかったが

優志「おい、詳しく聞かせろ」

当然の様に嬉々として翡翠に話を聞こうとする優志という名のドSは止められやしなかった

結局全員にあの会話が知れ渡ることとなってしまい、優木は一人恥ずかしさに項垂れた

コンコン


そんな中、扉をノックする音が部屋に響いた

優木が顔を上げて、返事をする前に、優志が返事をした

「朝御飯は済んだかな?
食器を片付けにきたよ」

「あ、どうぞ」

全員の食器を纏めるのを手伝ってウツギ博士に渡す

「博士ー」

遠くから聞こえた声に、そちらへ目をやると、廊下の奥の方から助手の研究員がやって来るのが見えた

「新人の子、来ましたよ」

「そっか、判った
直ぐ行くよ」

ヒノアラシがビクッと身体を震わせて、緊張した表情を浮かべている

「僕もついていっていいですか?」

「勿論、ヒノアラシがどっちについていくか決まるからね
一緒においでよ」

『ゆきっち、抱っこ』

ヒノアラシに抱っこをせびられて抱き上げてやる
本当になつかれてしまって、新人の子にはちょっと申し訳ないことをしたかな
優木は密かに苦笑いを溢した

皆はお留守番をしているかなと思いきや、しっかり後からついて来てて、あの優志も隣にいる
新しい仲間になるかもしれないヒノアラシのことだから放っておけない様だ

「お待たせ」

新人の子に、博士が二つのボールを持ってくる

そのボールからチコリータとワニノコが姿を現す

優木もヒノアラシをそっと下ろして三匹を並ばせた

「ずっと前から決めてたんだ
ヒノアラシ」

呼ばれてすぐに、ヒノアラシは走って優木の後ろに隠れてしまった

「え…なんで」

新人の子が当然訳も判らず混乱する

「…ごめん、この子
僕になついちゃって…」

「…お前も新人?」

「違うよ」

ヒノアラシをもう一度抱き上げて、優木は苦笑いした

「彼はカントーから来たトレーナーなんだ
カントーのチャンピオンのところまで行った実力者なんだよ」

「そんな強そうに言わないでくださいよ(汗)」

当然、新人トレーナーは優木を、気に入らないと思ったらしい

「ふざけるなよ、俺はずっとヒノアラシを貰う予定だったんだ
しかも新人じゃないとか、お前何なんだよ」

「まあまあ、他の子だっていい子達だから」

ウツギ博士が宥めようとするが、そんなことではこの新人の気は収まらない

「…君はどうしてヒノアラシがいいの?」

「決まってるだろ、バクフーンは強くてかっこいいからだ」

『…やっぱり進化系しか見てないんだな…』

優木の腕の中で、ヒノアラシは呟いた

「進化、嫌なの?」

『…嫌って訳じゃねえ
でもオレっち自身を見てもらえてない気がして』

「そっか」

思わずヒノアラシと会話してしまうが、怒っている新人トレーナーは気にも止めなかった様だ

「君はもし、このヒノアラシを連れて旅に出たとして
このヒノアラシが進化を嫌がったらどうする?」

「……」

問いに応えはない

そんなことあり得ないと思っているのだろう
訝しむ表情を浮かべるだけだ

翡翠『優木…』

翡翠は優木の言わんとしていることがよく判った
翡翠と同じ様な思いを、このヒノアラシにさせてはならない
進化を嫌がった時このトレーナーが絶対に無理強いしないという、確固たる意志がなければ、ヒノアラシは譲れない


「そんなポケモン、邪魔なだけだろ」





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