虹の旅路

□31,真実
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「ど…して……どうしてここに…」


「久しぶり、宙」


呼ばれたのは昔の名前

この世界で、優木とここにいる仲間達だけが知っている筈だった名前


「お母さん…」


呟く様に発せられた優木の言葉に、ポケモン達が驚く

翡翠『この人が…優木のお母さん…?』

優木と同じ緑色の髪と目

「そんなわけない…
僕はずっと独りだったんだ」

ある種の現実逃避に似た優木の言動に、母と呼ばれたその人は悲しそうな顔を浮かべ、そっと歩み寄ってきた

「そうね…、ずっと独りにしてしまってごめんなさい」

まるで壊れ物を触る様にそっと、優木の頬を撫でる手

そして直ぐに、抱き締められた

「髪と目の色が違う…」

動揺を落ち着ける様に発言する
母じゃない、と思いたかったのかもしれない

それでも、感じられた温もりは母の
優しい思い出のままだった

「あなただって違うじゃない

今は私と同じ綺麗な緑…

優木…ずっと会いたかった…」

今の名前まで、当然の様に呼ばれて
ますます訳が判らなくなる

ずっと、捨てられたと思っていたのに

僕なんか、いない方がいいんだと思っていたのに

「…優木、ずっと待っていたよ」

母の後ろから桃色の髪と蒼い瞳の青年が、優木に歩み寄る

その人から、あの気配を確かに感じた

「人…じゃないですよね…?」

「…そうだよ、君も感じるんだよね
僕の力を」

その人物は、人の姿のまま優木の頬にそっと触れた

凄く優しい手だった
愛しい者を触る様な、優しい手だ

「…僕が父親だと言っても信じないんだろうね…」

「?…父親…?」

人ですらないこの人の言葉に、衝撃が走る

今まで存在するのかすら判らなかった父親が、この人…いや、ポケモンだと言うのか

当然、信じられる筈等なかった

「全てを話すよ、君を独りにしてしまった理由
君の生誕についての全てを」


その人は、人ではない姿になった
それは桃色の毛並みをしていて、瞳は蒼、深い海の様な蒼をしていた

長い尻尾がゆらゆらと揺れる

人々から幻とされているポケモン


ミュウ


頭に映像として送られてくるのはこのミュウと、母親が経験してきた出来事…


ーー


ーーーー


ーーーーーーー


一人の女の子が、ある日突然この世界に送られてきた

その女の子は、ポケモンを貰って旅に出た

そして、ある時

元の世界に帰れるかもしれない時がやって来る

幻のポケモン、ミュウとの出会いだった

自分の仲間であるポケモン達と別れてまで帰りたいか、女の子は迷った

この世界の人間ではないという異質な存在の女の子に、ミュウは好奇心から近付き、いつしか仲良くなっていった

そして、気が付くと恋に落ちていた

女の子とミュウの間に子供を授かり、二人で育てようと決めた

しかし、人間である女の子にはその命は重すぎた

日に日に弱っていく姿を見て、ミュウは賭けに出る

ミュウの力が強すぎてこのままでは死んでしまう女の子を助ける為に、元居た世界へ帰すことにしたのだ

あの世界にいれば、ポケモンの力は無効化される

そうすれば、母子共に助かる可能性はある
但し、前例がないから何が起こるか判らない
ミュウの力が宿った子供がその力を失った時にどうなるかも判らない


この賭けは成功し、女の子は母親になった
たった一人で無事に女の子を出産した

しかし、なるべく早く、このポケモンの世界に帰らなければならなかった

既にカントーのチャンピオンとして戦い続けなければならなかったからだ

子育てはたったの六年間しか許されなかった

その間に、自立出来る様に子を育てた

小さな子供はミュウの力と空間移動に耐えられるか解らない
大人の身体に近くなるまでこの世界に送ることは出来なかったのだ



そう、その小さな子供

人間の身体とミュウの力を持つ少女

それが優木、君だ

衝撃、それ以外に何か言い様があるだろうか

ポケモン達皆も驚いている

「…どうして、この世界とで名前を変えたの?」

優木は質問した、最初に付けられた名前とどう違うのか、優木という名前も親が付けたのなら何故わざわざそんなことを

「宙って名前は、私が一人で考えて付けた名前
それもこの世界に無事に来れますようにという意味で」

《優木は、僕達二人で付けた名前
優しい木の様な温もりのある人になるようにって
僕が勝手に奏(かなで)を向こうに送ったからね
二人で付けられなかったんだ》

奏、母親の名前
間違いなく、僕のお母さんだ

「そんな突然現れて父親だとか言われても判らないよ
僕は今までずっと独りだったんだ
お母さんにだって捨てられたと思ってたのに…
今更出てきて親面されたって困る…!」

《そうだろうね、判ってる
だから受け入れてもらおうなんて思ってないよ
だけど自分の中にある力は認めなくちゃいけない
今の優木はいつ暴走するか判らない不安定な存在だ》

僕の中にある力…?

「僕は何なの…?」

「あなたは私とこのミュウの子よ…
信じ難くても、人間とポケモンの間に産まれた子供なの…」

信じられないことを言っているのに、嘘だと言い切れないのはどうしてだろう
頭が混乱しそうだ

翡翠『優木の目の色が変わるのもそれが原因?』

《うん
ポケモンの言葉が解るのもそうだよ》

「じゃあお母さんは…?」

《解らないんだ
だから今もテレパシーで話してる》

トリップしたからという訳ではなかったのか

優木に元々ポケモンの血が入っていたから、だからポケモンの言葉が解ったのだという

「ちょっと…暫く考えさせて…」

四天王戦の疲れもあって、優木は頭を抱えた

「そうね、それがいいわ
バトルは明日にしましょう
今はゆっくり休んで」



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