虹の旅路

□23,火山の街
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オニドリルの背中に乗って、フードを抑えながらグレン島を目指す一人の少年、いや少女

前に乗っているフシギダネが、下に広がる海と潮風に目を細めた

「潮風が目に染みるなあ」

翡翠『海もキラッキラで眩しいよー』

何だか楽しそうな一人と一匹
緑色の髪を隠しながら遠くに聳えるグレンの火山を視界に捉えた

あと少しで陸地へ着くだろう

飛由『ほれ、もう見えてきたぞ』

街並みが姿を現し、たくさんの温泉宿から煙が上がっているのが見える
そして目立つ赤い屋根、PCだ

島はお祭りの様に賑わっていて、出店まで見える
まだ朝だというのに、観光客らしき人の姿もたくさんあった

翡翠『優木、何か楽しそうだね』

「そうだね、観光地だからかな
ジム戦終わったら少し観光する?」

翡翠『うん!』

翡翠の瞳が期待に輝く
その可愛らしさに自然と優木も笑顔になった

飛由『温泉は行くのか?』

「うーん…、焔駆とかが恐いからなあ…」

苦笑しつつ、やんわり拒否しておいた

PCの前に着地すると、直ぐジムを探すことにする

人が多いから皆を出すのはやめて翡翠を抱っこ、飛由が近くを飛ぶだけ

ジムは案外直ぐに見付かった

ゲームのように扉に鍵が掛かっている、なんてこともなくすんなり開く

中へ入ったタイミングで勝手にボールから皆が出てきたが、まあいいだろうと無視した

少し奥から一人、歩き寄って来た白衣の人物
この島のジムリーダーであるカツラだ

「おお!?挑戦者か!?」

「ええ、そうです」

凄い勢いで肩を掴まれてたじろぐも、カツラのテンションは変わらない

「やっと燃えるバトルが出来る!
さあトレーナー!名前を教えてくれ!早く!」

「え、えーっと…優木です…」

どうもバトルに飢えているらしいカツラのテンションに、優木はついていけなかった

「優木君か!
さあ来たまえ!バトルフィールドへ!」

「ちょ…そんな慌てなくても…!」

すごい早足と力で手を引っ張られて焦る
少し足が遅れればあっという間に転んでしまいそうだ

「善は急げというからな!」

使い方違う気がするんだけどなー……と思いつつ、優木はもう苦笑混じりにされるがままついていくしか出来ないのであった

翡翠『なんか凄い人だね』

月光『暑っ苦しいな』

フィールドへ辿り着く
赤く塗装されたそこの、チャレンジャーが立つ位置でカツラの手は離された

朝日『ここ自体、何だか暑いですね』

「炎タイプのジムだからな」

そのままバトルフィールドの向こう側へと向かったカツラには聞こえない程度の声量で、優木は朝日の言葉に反応した
グレンジムと言えばクイズだが、現実はクイズ無しでいきなりバトルか
しねしね光線とか、面白かった記憶があるんだけどな
等と前の世界での思い出を思い出しているうちに、カツラは位置についてボールを手にしていた

「使用ポケモンは三体だ
行けキュウコン!」

カントーポケモンの中でも特に美しいポケモン来たーっ!

モンスターボールから飛び出したクリーム色の毛を持つ炎タイプのポケモン
スラリと伸びる九本の尾がウェーブの様にゆらゆらと揺れた
赤く細い瞳が怪しく光を帯び、底の知れない魅力に溢れている

「やっぱり綺麗だ……」

思わず見惚れると、何故か後ろから殺気を感じた
勿論優木にではなく、その先にいるキュウコンに向いたものだ

え?皆キュウコンに何か恨みでもあるの?

冷や汗を感じつつ、こちらも戦うポケモンを出さないといけない

「えーっと…月光、頼むよ」

朝日『ギッタンギッタンにしてくださいよ』

焔駆『あの毛むしってきてつっきー』

朝日と焔駆が恐ろしいことを言って他の皆も無言の圧力を掛けてくる
その皆の様子に、月光は冷や汗をかきつつ前へ出て来た

月光って結構苦労してるよな……

フィールド上で月光とキュウコンが対面、バトルが開始された

「キュウコン、熱風!」

「月光、守る!」

風に熱を与えて攻撃する熱風、攻撃範囲は広く、この狭いフィールドと月光のスピードでは避けられないと判断して守らせる
絶対防御の緑の光が、月光を包み込んでダメージを無くす

「月光、電光石火!」

月光『はいよっ!』

接近戦に持ち込む為一気に接近して一発叩き込む
気のせいか、今までよりどこか威力が乗っている様に見えた


「アイアンテール!」

「こっちもアイアンテールだ!」

アイアンテール同士がぶつかる
向こうは九本もある尻尾が、月光のたった一本の尻尾を押し返すことが出来ない

「やっぱりいつもより威力上がってる…」

月光『マスターを誘惑しやがってこの狐やろうがあっ!』

優木は声に出さず盛大に驚愕した
月光は朝日相手ならともかく、優木にはいつもそんな態度を取らないから全く予想外だった
誘惑してるつもりもされてるつもりもない優木とキュウコンは、ただ月光の主張に困惑することしか出来ない

『そ、そんなの知るか…!!』

月光ってそんなキャラだったっけ!?
ていうか皆の殺気ってそういう意味だったの!?


遂に月光のアイアンテールがキュウコンを上回り、キュウコンが仰け反る

月光『おい!マスター次!』

「え?あ、はい
騙し討ちで」

呆気に取られながら騙し討ちを指示

物理攻撃に弱いキュウコンにこの三連打は辛そうだ

「大文字!」

カッと目を見開いて大の字に炎を吐く

「穴を掘る!」

瞬時に地面の中へ避けると、月光はこちらの合図も無しにキュウコンの真下から飛び出した

キュウコン……ドンマイ……

半分は自分のせいな気もしたけど心の中で合掌しておいた

月光は皆によくやったと言われてガッツポーズしている

ちゃんと皆に愛情あげてるつもり何だけどなあ

苦笑いしか出ない

「これは強い……
次はギャロップ!行け!」

これまた美しいポニータの進化系がボールから飛び出す

焔駆が進化したらこんなに綺麗になるのか……

自分の実力を見るという意味でも、ここは唯一進化の可能性があるあの子にしよう

「焔駆」

焔駆『ふふ、来ると思った♪』

進化系と戦うというのに楽しそうな焔駆に苦笑い

焔駆『見ててよゆきちゃん♪
ワタシもあれくらい、ううん
あれ以上に綺麗になるから……!』


「あはは、楽しみにしとく」

恐らく相手も貰い火、炎技が使えない戦いになるだろう

「進化前とは嘗められたものだ
ギャロップ、ドリルライナー!」

ギャロップにならないと覚えられない地面タイプの技

焔駆『きゃああ!』

「っ!焔駆!」

指示をする暇すらなく攻撃に当たってしまった焔駆が吹き飛ぶ

とんでもない速さだ

「は、速い……」

歯噛みする

焔駆は抜群の技を受けてなお、辛うじて立ち上がる

焔駆『くっ……う……、負けない……絶対に……負けない……!』

進化系だからか、対抗心を燃やしてしっかりと四肢を踏ん張った

焔駆『はあぁああああ!』

「焔駆?」

何故か炎を纏う焔駆

焔駆『ワタシね、ずっと考えてたの
サッちゃんが砂嵐をちゃんと使えるようになってからずっと考えてたの

ワタシも、フレアドライブ使える様にならないとって』


砂塵『ほの……』

焔駆『ワタシ、ずっと逃げてた
こんなのワタシの力じゃないって
人に与えられた力何てって

でも、それは間違ってた
人に与えられた力でも、ワタシの力はワタシの力、これが自分なんだ

フレアドライブは、本当に強大な力で、怖かった
使うのが怖かった』


焔駆の纏う炎が大きくなる
あの時、砂塵を守ろうとしたあの時の様に

焔駆『でも、これは誰かを傷付ける為の力じゃない……!
これはそう、誰かを護る為の……
ゆきちゃんを護る為の……!

ワタシゆきちゃんを護りたい!
だから、フレアドライブも絶対使いこなしてみせる!』


カツラは何をするでもなく、ただ焔駆の炎を見ていた

「……判った
焔駆、僕も、出来る限り皆を護りたい
人間の僕に出来ること何てたかが知れてるけれど……護りたいんだ
きっと、同じ気持ち何だよね
……貰い火何て知らない
行け焔駆、フレアドライブ!」

焔駆『ありがとう、ゆきちゃん……

はあぁああああ!』


更に激しく燃え盛り、ギャロップに向かって突進していく

「受けてやりなさい」

やはり貰い火、身体全体で焔駆のフレアドライブを受けようとするギャロップ

その時、焔駆の身体が光に包まれ、更なる炎に包まれる

大きく成長した身体で力一杯ギャロップにぶつかった

その威力は強大で、ギャロップの貰い火をも打ち砕く

焔駆は、ギャロップに進化していた

美しい炎が燃え盛り、ギャロップを転倒させる

「何!?」

「踏みつけ!」

呆気に取られながらもこの好機を逃す訳にはいかない
転倒したギャロップを力強く踏みつけ、勝敗は決した

「焔駆!」

大きく、美しくなった焔駆に駆け寄る

焔駆『ゆきちゃん!
使えたよ!フレアドライブ!』


暴走することもなく嬉しそうに前足を上げて……上げて……

「わ、わ!焔駆!
潰れる!潰れる!」

ポニータの時と違って今や優木より大きい焔駆に前足を乗せられたら堪ったもんじゃない

焔駆『あれ?ワタシ大きくなってる?』

……進化したことに気付いてなかったらしい

「全く……綺麗になったな焔駆」

頬を優しく撫でてやると、赤い瞳が細く閉じられた

焔駆『ゆきちゃんのおかげだよ』



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