虹の旅路

□22,暴走族とドSと…
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今日はサイクリングロードを通ってセキチクへ行く予定、皆にそう伝えて現在は朝食タイム

皆でご飯を食べながら、ちょっとした雑談
この時間は起きたばかりの皆がのんびりとした癒しの時間だ

翡翠「なんか、優木変わったよね」

しかし今日はあまりにも突然、優木が話題にされることとなった

「そ、そうかな?」

突然の事に喉に詰まりそうになったご飯を飲み込んで、何とか普通に返事をする

砂塵「おれもそう思う」

朝日「明るくなりましたよね」

月光「明るくなったというかいい笑顔が増えたというか」

口々にこんなことを言われると、何だか照れてしまう
この前までの自分は、心の中でどこか遠慮して壁を作ってしまっていた気がする

「皆のお陰だよ」

少し赤くなっているかもしれない顔が皆に見えない様に、軽く後ろを向いて頬を掻きながら言った

焔駆「ふふ、今のゆきちゃんは前よりもっと素敵になった」

「焔駆は変態になった」

焔駆「やだぁ、本性隠してただけだよ?」

また焔駆に後ろから抱き付かれる
いつの間にかご飯を食べ終わって席を立った様だ

翡翠「翡翠もー!」

そこに何故か翡翠まで加わって、食べようとしていたご飯が口に運べない

後一口何だけど……!?

飛由「何で変わったんだ?」

「…こんな僕を受け入れてくれたから、かな」

漸く翡翠と焔駆から解放されて、優木も食事を終える
逃げる様に片付けに入る優木の後ろで、さらりと飛由が一言口にした

飛由「最初から俺達はお前を受け入れるつもりだったがな」

「…ありがとな」

小さく呟いた声は、きっと飛由にも届いただろう



PCを出てサイクリングロードへ向かう
ゲームでは自転車を持っていないと通れないが、実際は自転車が無くてもレンタル出来るらしい
受付のある建物へ入り、案内に従ってレンタル専用の入り口を通る

翡翠以外の皆をボールに戻して翡翠はレンタルした自転車の篭に乗せてやる

翡翠『こんなバランス悪そうな乗り物大丈夫なの?』

「大丈夫だよ」

自転車は初めて見るらしい翡翠
確かに見た目は簡単にバランスが取れる様には見えないよね、と思いつつ慣れた様子でサッと乗り込む
百聞は一見に如かず、だ

ペダルを軽く漕ぐ
風が気持ちいい

翡翠『わあ…いい風…』

翡翠も気持ち良さそうだ


あ、フードが……


髪を隠していたフードが風に靡いて後ろに戻ってしまう
緑の綺麗な髪が青空の元へ晒された

翡翠『!?』

「あかん…(汗)」
慌てて自転車を止め、フードを再び被る

「おい、そこのお前」

誰かに呼び止められ、優木は肩を震わせた
しっかり左肩を掴まれて、逃がさないと言わんばかりの気迫で迫られる

「緑色の髪だよな」

「な、何のことでしょう」

フードに手を掛けたまま、優木は振り返りもせずにそう言った
それだけで逃して貰えるはずもないが白状する訳にはいかない

「ロケット団に懸賞金掛けられてる奴だよな
ついてきてもらおうか」

横目で相手を見る
恐らく暴走族だろう、顔のあちこちにピアスが空いている
体型は小柄な方だが、純粋な力比べなら優木に勝ち目はないだろう

「嫌だと言ったら…?」

「大声出してもいいんだぜ?」

「もし、僕がそうだったとして、回りの人間に知れると横取りされるかもしれないですけど?」

「そ、それもそうか」

不良達に囲まれるという最悪の事態は回避出来そうなことに一先ず安堵する
しかし騒ぎを起こせば直ぐ様囲まれる可能性はまだまだ消えていない

翡翠『優木…どうするの?』

心配そうに翡翠が聞いてくるのを、優木は優しく頭を撫でて大丈夫だよと伝えるだけだった

「取り敢えず来てもらう」

「だから嫌だって」

肩に置かれていた手に力が入る
それを、両手で無理矢理肩から引き剥がした

「ちっ
なら力付くだ!」

「それなら受けてたつ!」

モンスターボールを構えるのを見てこっちもボールを構える

「行け!ドガース!」

「月光頼む!」

乾いた音と共に各々のボールからドガース、ブラッキーが飛び出した

「噛み付く!」

場に出て睨み合う時間が勿体無いとばかりに速攻で噛み付くを指示

「え、煙幕だ!」

相手は突然の攻撃に驚きつつも、煙幕で目隠しをしてくる
噛み付くをかわし、そのまま姿を隠した

「なら…!バークアウト!」

月光が煙に向かって音による攻撃を放つ
ドガースの煙幕は決して広い範囲ではなく、バークアウトで十分にカバー可能な範囲だ
優木の睨んだ通りドガースはバークアウトで煙から弾き出されると、地面を少しだけ転がってから体勢を立て直した

「ヘドロ爆弾!」

「騙し討ち!」

月光は影の様にその場から消え、ヘドロ爆弾に当たることなく後ろから大きく身体を捻って攻撃する
攻撃を外された上に後ろから奇襲を食らい、ドガースは再び地面を転がった

「シャドーボール!」

月光『これで終いだ…っ!』

起き上がる時間を与えずにシャドーボールを放つ
素早く放った特殊技はそのままドガースに命中
土煙が晴れた頃、ドガースは一瞬宙に浮いてから完全に地面へと倒れ伏した

「畜生!」

暴走族が地面に当たっている内に、月光に労いの言葉を掛けて戻し、再び自転車を漕ぎ始めた
後ろで慌てて呼び止めようとする声が聞こえるが、走り出したらもう無視でいいだろう

翡翠がまたフードが戻って厄介な相手に捕まらない様に、つるで押さえてくれている
そうして後は何事もなく走り続けた


坂を全て下り、漸くセキチクへと辿り着く
レンタルの自転車を受付に返し、一息吐いた

翡翠『危なかったね優木』

「流石に焦った」

サイクリングロードの建物を出たところで、皆が一気にボールから出てきて話し出す

焔駆『心配したよゆきちゃん』

砂塵『何とかなって良かったぁ』

月光『バトルじゃなかったら大変な事になってたな』

さっきの出来事で皆にかなり心配を掛けてしまったらしく、優木に身体を寄せる焔駆や砂塵
行動としては控えめに、月光はその場でため息を吐く

飛由『やっぱあの紙相当広まってるぞ』

更には飛由が、少し楽観視していたのかもしれない紙のことを溢した

「そうだな……もっと気を付けないと……」

朝日『マスター、本当に気を付けてくださいよ?
マスターにもしものことがあったらと思うと……不安です』


「うん……ごめん、皆」

流石にしおらしくなった優木に、仕方ないとため息を吐いた仲間達だった



そうして何だかんだでセキチクジム

ここはゲームと同じか

中に入ると、正面奥にキョウが立っているのが見える
念のために手を前に出して歩いてみると、予想通りそこには壁があった

「あー……」

砂塵『どしたの?主』

砂塵がそれに気付かずに壁に激突した

砂塵『ぅわっぷ』

尻餅をついて目を白黒させる砂塵を、可愛いなぁと思いつつ助け起こす

砂塵『な、何が…!?』

「壁だよ、見えない壁があるんだ」

砂塵に目の前のものを教えてやると、爪で見えない壁をそっと叩いて確かめる様子を見せてくれた

「ファッファッファッ
こっちまで来てごらん少年」

奥にいるキョウの笑い声が聞こえる
生であの、ファッファッファッが聞けるとはとか一瞬思ったけどそんなレアでもないかと思い直した
「さて、じゃあ行くかな」

先ずは記憶を頼りに右に曲がって、かなり微妙に見える壁を伝って奥へと進んでいく
記憶が正しければ道はゲームと全く同じだった

中央がゲームと違ってしっかりバトルフィールドになっている訳だが、バトル中に壁が壊れたりしないのだろうか
そもそもこの壁はガラス…?それともプラスチック?

そんなことを考えている間にバトルフィールドにたどり着いた
知っているが故に何の苦労もない

「特に迷う様子もなく抜けてくるとは」

「あはは、これくらいわけないですよ」

余裕で笑って見せる優木を、腕を組んで待っていたキョウは何だか悔しそうに見ていた

あの見えない壁で右往左往するトレーナーを見るのが好きなのかな?だとしたらとんだ

焔駆『ドSね』

「読心術か焔駆」

焔駆と思考が被ったのか、思ったことを先に言われ思わずそう口走る
その様子をキョウが首を傾げているのが見えて、優木は内心少し焦った

「あ、すみません
ジム戦お願い出来ますか?」

誤魔化すためにジム戦を挑む

「あ、ああ
勿論だ少年」

少しだけ腑に落ちない反応を見せたが、キョウは何も言わずに挑戦を受けてくれた

「使用ポケモンは三体だ
行け!コンパン!」

キョウの一番手であるコンパンが、ボールから呼び出されてフィールドに立った

「コンパンから来たか
じゃあ翡翠、行く?」


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