虹の旅路

□21,タマムシジム
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静かな月の時間が終わり、朝を迎えると小鳥が囀ずる

ポッポの群れが楽しそうに空へと飛び立つ

PCの一室、開いた窓に止まる一羽のオニドリル

ロケット団に狙われている緑色の髪と目を持つ少年、もとい少女が泊まっている一室だ


「…んぅ……」

少女、優木はオニドリルの飛由が窓に止まって差した影によって目覚める

飛由『はよ、優木』

まだ眠そうに目を擦る優木に、飛由は不敵に笑って挨拶した

「おはよ、飛由」

挨拶を返してからのんびりと伸びをする
隣で寝ていた翡翠がその様子に気付いて起きた様だ

「おはよ、翡翠」

可愛いパートナーの頭を撫でて、挨拶する

翡翠『おはよっ優木』

伸びをしてから元気に返してくれた翡翠に自然と笑顔になる

そんな中皆も続々と起き出して、各々朝の挨拶をしていた
静かだった一室が、一気に賑やかになろうとしている

飛由『おら、さっさと朝飯作れ』

「痛い痛い!朝から止めろって…!」

飛由に頭をつつかれて、優木はそれを手で振り払う

「全く…」

ベッドから出て軽く頭を掻いた
つつかれたところが、痛痒かったからだ

砂塵『主、おれベーコン食べたい』

月光『お前本当肉好きだな』

朝日『私手伝いますよ』

朝日が擬人化するのを横目に、欠伸を一つ

「…助かるよ朝日」

人数分の食事を作るのは毎回大変なんだよな

また、ふと昔を思う

自分だけの為に作っていたときよりは全然いいんだけどね

翡翠『優木なんか楽しそう』

顔に出たのだろう、翡翠にそう言われて軽く笑った

そこへ突然飛び掛かってくる赤い何か

焔駆『ゆきちゃんの裸エプロンを所望するーっ』

「こ、断る!////」


他の仲間達に押さえ付けられてあえなく退場していく焔駆に、苦笑と共に手を振っておいた

そして始まる朝食の時間

朝日「マスター、今日は何処に行くんですか?」
「今日はタマムシに行ってジム戦を…」

ベーコンの付いた目玉焼きを咀嚼しながら今日の予定を言うと、皆心配した顔をしているのが見えた

タマムシだからかな

飛由「あそこにはロケット団のアジトがあるだろうが……」

「コートと眼鏡あるし大丈夫だよ」

最後のベーコンを口に含んで言う
飛由はため息を吐いただけだった

皆の心配も最もだ
タマムシのロケット団アジトに乗り込んで、捕まり
脱出こそしたものの、優木は死にかけの状態だった
そして、お金を出してでも優木を再び捕らえようと画策している
当然優木が優木として見付かれば、たちまちロケット団に囲まれることになるだろう

翡翠「万が一バレたらどうするの?」

「まあ、それならどうせその内バレるし
ジムがあるからどうせ避けられないよ」

それなのに当の本人は何でもない様にそう言って食器を片付ける

「ご馳走さま」

手伝ってくれた朝日に一言そう言ってそのまま食器洗いに入った

砂塵「まあ…万が一があったらおれ達が主護ればいいだろ?」

焔駆「大丈夫よ、どうせその辺ほっつき歩いてるのは雑魚ばっかりなんだから」

砂塵と焔駆が皆を宥めてくれていた


コートに袖を通し、眼鏡を掛けて、ファスナーもしっかり上まで上げる

フードを被って荷物を背負ったら、準備は万端

「さあ、行くか」


PCを後にして、歩いてタマムシへ向かう

道のりはそんなに長くない、地下通路を通って抜ければあっという間にたどり着く

何事もなく(何度かバトルはしていたりする)通り抜けると、広がる都会の街並み

そういえばデパートとかあったっけ
前はろくに街を歩く暇もなかったから行ってないんだよな
傷薬とか買いたいな

まあしかし、当然のこととは言え皆が警戒を強めている
街中は案の定、例の黒服がたくさんいた
飛由『馬鹿みてぇにロケット団がいるじゃねぇか』
悪態を吐く飛由

翡翠『ダサい人がいっぱいだね
優木、気を付けてよ?』


翡翠が心配する様に手元につるを伸ばしてきた

手じゃないけど繋げってことかな

優しく握ってやると、少し安心した表情になった
自然と優木も笑みを浮かべる
そこへ

「おいそこのお前」

後ろから誰かを呼び止める声が聞こえた
自分のような気もしつつ、無視を決め込む

「お、おいお前だって!フード被ってる不審者が!」

「……お前の方が不審者だけどな」

街中でフードを被って歩いてる人なんてそうは居ない
明らかに自分のことだと判る言葉を出されては、振り返らない訳にもいかなかった
仕方なくため息を吐いて振り返る、それはもう、不機嫌丸出しで

「俺は街に馴染んでるからいいんだよ」

「不審者がいっぱいいる様にしか見えないんですが、ていうかダサい」

砂塵『何挑発してんの主!?』

ロケット団員はたったそれだけで白くなって固まっていた
不審者とダサいのダブルコンボが意外にも刺さったらしい

「今のうちに行くか」

悪戯な笑みを見せて、優木は走り出した


タマムシジムの前に辿り着く

昔々に見たアニメのことを思い出す

確かこの中って、男子禁制だったっけ
あの回でしか出てこない、サト子ちゃんを思い出していた

「あら、ジムバトルですか?」

後ろから声を掛けられて振り返る

お出掛けしていた様子のエリカが、そこに立っていた

「あ、エリカさん」

「あら、知ってくれてるのね」

「勿論です」

思ってた以上に美人だなとか思いながら笑顔で答える

「ジムバトルでしょう?」

「はい」

「どうぞ入って」

にこやかに中へ通される

流石は草タイプのジム、植物が沢山植えられていてまるで植物園だ

ジムの中でまで警戒する必要はないだろうと、フードを後ろに戻して緑の髪を外気に晒す
こっちの方が断然楽だ

「外はロケット団が沢山いて大変だったでしょう?」

「ああ、はい
軽くあしらいましたけど」

軽く笑って答える

「そうですか、お強いんですね」

「いや、別に戦ってはないんですけどね……」

こんな話をしている間にバトルフィールドに辿り着く

「使用ポケモンは三体です」

反対側に立つと、エリカがこちらに一つのボールを向けて言った
その顔は、ジムリーダーらしい、強く可憐な笑みだ

「よろしくお願いします」

こちらもこれから始まるジムバトルに久しぶりにわくわくしながら笑った

「お願いします、クサイハナ!」

「飛由、頼む」

後ろを振り向いて、いつの間にか外に揃っている全員の中から飛由を指差す

飛由『おっしゃ』

優木の腕の方へ飛んできて、軽くその腕に足を掛けると、そのまま飛由はすぐに前へと出た

「クサイハナ、ヘドロ爆弾!」

「かわして電光石火!」

エリカの指示からバトルが始まる
クサイハナが指示通り飛由へ、攻撃を放つ
そのヘドロ爆弾を飛由は軽々とかわして低空飛行、翼を殆ど折り畳んで素早くクサイハナに迫る

「かわしなさい!」

しかしその素早い攻撃を軽々とジャンプしてかわされる
だが優木にとってはそれこそが狙いだった

「乱れ突き!」

素早く振り返って空中のクサイハナに乱れ突きをお見舞い

「クサイハナ!」

そしてそれだけでは終わらないのがこの二人

「だめ押し!」

飛由『おらよっ!』

先程ヘドロ爆弾を外した分上乗せの攻撃を思いっきりぶつける
空中での連続攻撃になす統べなく、クサイハナは地面へと一気に吹き飛んだ

「ドリル嘴!」

飛由『この感じ…さいっこーだぜ!』

素早い連続攻撃に酔いしれる飛由
楽しそうな様子に思わず優木にも笑みが浮かぶ

地面に激突して動けないクサイハナへ、ドリル嘴はそのまま綺麗に決まった
止めのドリル嘴は草タイプのクサイハナには効果は抜群、耐えられるはずもなく戦闘不能である

飛由の勝ちだ

「ありがと、飛由」

飛由『超気持ちいい』

飛由の翼とハイタッチして、後ろへ下がらせた


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