虹の旅路

□20,心の闇
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擬人化は、信頼の証…か……

僕は皆の信頼に応えられているのだろうか……?

いや……応えられていないな……

だって…まだ話すべきことを話してない

僕は今までどうして話さなかった?

時間がなかった?


そんなの言い訳だ、本当は怖いんだ


皆に見放されるのが……



PCの一室で、夕食を終えた優木は一人考え込んでいた

砂塵「おれの肉返せよ!つっきー!」

月光「もたもたしてるお前が悪いんだよ砂塵」

最後まで大事に取っていた砂塵のおかずを、月光が拐って追い駆けっこに発展している
つっきーは砂塵が考えた月光の呼び名だが、読みはつきじゃないと何度も月光に怒られている

そんな二人の喧嘩も、優木の耳には入っていなかった

朝日「もう、下らない事で喧嘩しないでくださいよアホお兄ちゃん」

月光「アホ!?(ガーン」

朝日に馬鹿にされて落ち込み始めた月光に他の仲間が笑う
その隙に砂塵は自分のおかずを取り戻し、漸く賑やかなご飯タイムが終了する

考え込んで珍しくその場から動かない優木を気遣うように、朝日が原型に戻って食器を全て念力で片付けてしまう

しかしその間もやっぱり優木は一人、上の空だった


話すべき……何だろうな……

でも……やっぱり怖い

全く情けない……皆に見放されるのがこんなにも怖くなるなんて……

本当はもっと……

早く話すべきだったんだろうな……




飛由「……い……お……

……優木!」


ビクッと身体を震わせる
一人の世界に入り込んでいた優木は叫ぶ様に放たれた自分の名前で漸く現実へ戻ってきた

目の前には擬人化した飛由が立っていて

飛由「何回呼ばせんだよ」

怒り気味にそう言われた

「ああ……ごめん……」

何だか気まずくなって視線を逸らす
しかしそれは、飛由に両手で両頬を挟まれて阻まれた

飛由「お前、いつまで隠し事してんだ?」

飛由の言葉に、いつの間にか全員が二人へ注目している

優木の瞳は明らかな動揺を映して、逸らすことの出来ない視線にただ戸惑う

飛由「さっさと言えよ」

砂塵「ゆう兄、そんなに強く言わなくても…」

飛由「砂塵は黙ってろ!
俺は優木に聞いてんだ」


飛由の怒鳴り声に、皆身体を震わせて黙った

優木も、何も言い出せない

飛由「てめぇは…何をそんなに頑なに隠してやがんだ?
いつまでも俺達に言えないようなことが、お前にあるのかよ!?」


「飛由に……何が判るんだよ」

気が付いたら言葉が出ていた

自分でも驚く程、冷たい声だった

いつもは出さない様な低い声に、皆が戸惑っているのが解る
でも、口は止まってはくれなかった

「僕の何が判るんだ
僕だってそんなに簡単に何でも話せる程出来た人間じゃない
僕を買い被るな、何も判ってないくせに」


皆ただ呆然と優木を見ていた

その視線が辛くて、優木は飛由の手を無理矢理振り払って立ち上がり、扉に向かって早足で歩きだした

飛由「!?
優木!」


しかし飛由の方が足幅も広ければ速度も速い、二三歩で手首を掴まれて再び止まる

「……離して」

振り返ってそう言う優木の顔は、辛そうに歪んでいた

飛由「……そんな顔したやつ、行かせられるか」

皆に見せたこともない表情、言葉、声

酷く動揺させてしまったはずなのに飛由は手を離さない

更には皆が、優木と出口の間に立って、完全に逃げ道を無くしてしまった

「……っ……!」

優木は飛由の手を振り払う事も諦め、皆に顔が見えない様に俯いた


重苦しい沈黙が続く

その沈黙を破ったのは飛由だった

飛由「俺達のこと、お前は信用出来ないのか?」

優木は、はっきりとその問いに答えることが出来なかった

「僕は……皆に信じて貰える自信がない……
話してもついてきて貰える自信が……ない……」

代わりに言えたのはそんな言葉だった

飛由「……アホかお前は…
言わない方が信じられなくなる、ついていけなくなる
それが判らねぇのか?」


「話しても大丈夫な保証がどこにある」

飛由「保証がなきゃ話せねぇのか?お前は」

「そうだな……僕は弱いから」

俯いたまま言葉を交わす
普段は隠している様な、自分の中にある黒い感情が、表に出ている気がした
それでも優木は、ただ無意識の様に言葉を返していく

飛由「そんな卑下すんな、いつも言ってんだろうが」

「事実だ」

キッと睨み付ける、いつもと違う優木に、飛由は少したじろいだ
そして酷く悲しそうな顔で、静かに言った

飛由「……そうかよ……
ならお前は、これからも俺達に隠し続けるんだな……?」


優木はその言葉に、少なくない罪悪感を抱く
好きで隠している訳ではないから、当然だった

「っ……別に……そういうつもりじゃ……」

優木は再び俯いた
黙っていることの罪悪感と、再び一人になってしまうかもしれない恐怖がせめぎあっていた

そんな優木に、これまでただ黙って聞いていた翡翠が近付いてくる

翡翠「優木、お願い
翡翠は絶対離れないから…だから翡翠を信じて話して…?」


「……皆を……騙していたとしても…?」

言い辛そうに一拍置いてそう言った優木に、少し驚いた様子はあった
それでも、翡翠の意思は変わらない様で
皆もただ黙って、話してほしいと視線で訴えていた

「……判った……
話す……話すから…
だから…手……離してくれ…」

少し間があってからゆっくりと手が離される

この期に及んで逃げよう等とは思えず、さっきまで座っていた椅子にゆっくり腰を下ろした

飛由「……乱暴にしてすまねぇ…」

朝日がお茶を出してくれてそれを一口、ホッと息を吐く

「……いや…もっと早く話さなかった僕が悪いんだ……
それに僕こそ、あんな態度取ってごめん……」

自傷気味に笑う

月光「マスターがあんな態度取るくらいなんだからよっぽどのことなんだろ?」

「……どうだろう……」

これから話すことを思うと、情けないくらいに緊張で手が震えた

お茶を持っている手が震えていて、そんな様子が皆にバレてしまうとか、そんなことを考える余裕もなかった

皆は、優木をただ信じて待ってくれている



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