虹の旅路

□19,サカキの手
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背中の傷は酷いものだった
内臓までは届いていなかったものの助骨を二本、根本近くから一刀両断されていて、しかもそれが倒れた影響で肺に刺さったとかで完治には長い時間が掛かると言われた

生きていること自体が奇跡の様なものだから時間が掛かるのは判っていたが、暫く旅を中断しなければならないのは少し痛手か

よく無茶をするから傷が開かない様になるまでは絶対旅させない、と翡翠達にははっきり言われて、優木は苦笑
およそ一月もの間、傷を癒すことに専念することになった

そんな優木も随分と回復し、起きている時間が増えて普通に呼吸も出来る様になった頃だった

飛由『おい優木』

窓から慌てた様子で入ってきた飛由が、何処から持ってきたのか判らない紙を優木に渡す

首を傾げながらもそれを開くと、そこに書いてあることを読んで驚愕する

優木の似顔絵が書かれていて、ロケット団の元へ連れてきた者には懸賞金を出すと書かれていた
明らかにあの黒い連中が作ったものだ

「なんだこれ…」

飛由『やつらお前のことで躍起になってやがる
街中を飛んでると黒いのばっかり目に入るぞ』


恐らく今は病院かPCに居ることはバレているだろう
あんな怪我をしていたのだから

死んだと思ってくれれば良かったものを…

飛由『死んでいてもいい何てあいつらイカれてやがる』

飛由の言葉に驚き、もう一度紙を見る
その紙の下の方に、既に死んでいた場合、遺体を持ってきた者に賞金の半分を差し上げますと書いてあった

ゾッとした

奴等は既に遺体であろうが構わず手に入れたいのだ

何でそこまでして僕を狙ってくるんだ

優木のそんな疑問も今は考えても判る筈などなかった

飛由『どうする優木』

「…怪我が治ってもこの街を探索するのは避けた方が良さそうだな…
となるとタマムシもか…」

飛由『流石にそこまで無茶はしねぇか』

少し笑う飛由
それに苦笑いを返す優木

「それは流石に負け戦だからな
でも…ミュウツーとのバトルの時はごめんな飛由」

あの時飛由を本気で怒らせてしまった
自分一人で、勝手に勝てないと思って勝手に自分を犠牲にしようとした

飛由『ん?
…ああ…まあ、確かにあいつは強かったしな
お前があんな行動取ったのも納得だ
今思うと、あれはあれで優木らしいんだよな
自己犠牲で自己卑下だからよ』


笑ってそう言う飛由は一体わざと言っているんだろうか

一言多いんだよな

こっちの心情も知らず、皆を呼びに行った飛由を見送った


全員が集まって例の紙を飛由が皆に見せる

「わざわざ皆に伝えなくても…」

心配そうに此方を見る皆に困った顔を向ける

飛由『どのみちどっかで知れる
全員知ってた方が対処も全員が出来る様になるし』


正論なので言い返すこと何て出来なかった

焔駆『ゆきちゃんが狙われるのは予想していたけど生きているかも判らない状態でこんなことをするなんてね…』

「ごめんね、皆と話せるのがバレたばっかりに」

翡翠『でもバレてなかったら殺されてたんだよ?』

翡翠が心配そうに膝に上がって来る
実際そうだ、利用価値のない旅人一人殺したところで誰にも気付かれること等ないし、邪魔は消してしまった方が都合もいいだろう
次いでにポケモン達を実験に使うことまで出来た筈だ

「そう…だね…」

バレてしまった代わりに、優木は今何とかこうして生きている
仲間達も皆無事にこうして傍にいる
大事な仲間の一匹である翡翠の頭を撫で、優木は少し顔を伏せた

月光『今更過去を振り返って後悔しても仕方ないぞ
兎に角ロケット団に捕まらない様に、これから細心の注意を払って行動するしかないだろう』


月光の冷静な言葉に、皆ただ頷いた


優木は念の為になるべく部屋から出ない様にすることに、出るときは誰か一匹だけでも必ず連れていくことを皆に強要された
部屋には誰か一匹は残り、片時も優木を一人にはしなかった


そうして1ヶ月が経過していた
背中の傷は、痕こそ残ってしまったものの、血液も通常の量に戻り、もう大丈夫だとジョーイさんに言われた

そしていよいよ、旅を再開する

「お世話になりました」

「気を付けてね」

笑って送り出してくれたのはジョーイさん
因みに現在はPCのロビー、外に出るとロケット団に見付かる恐れがあるからだ

ヤマブキを抜ける為には基本的にゲートを通らないといけないが、ゲートの人間はロケット団と繋がっている可能性が高いとジョーイさんは言った
その為優木達は、ゲートを避ける為にPCを出て直ぐに飛由に運んで貰うことになっていた

行き先はシオンタウン、一度スルーした街だ

「それじゃあ、失礼します」

「行ってらっしゃい」

翡翠を抱き上げて近くを飛んでいる飛由の右足を掴む
そしてPCの外へと飛び出し、そのまま高く上昇した

幸いにも近くにロケット団は居らず、気付かれることすらなく飛び立てた様だ

「何だか久し振りだなぁ…」

今まで陸路を行っていたから街まで飛んで移動するのは初めてだが、この旅をしている感覚
暫く忘れていた、この世界という広い広い旅の舞台

しかし、思った以上に体力がいるものだ
翡翠と自分の体重が右腕に重くのしかかる

翡翠『優木、重くない?』

「大丈夫だよ翡翠」

強がりの様にも思えるが翡翠を安心させる様に笑い掛ける

シオンタウンは直ぐに見えてきた

飛由『本当にここでいいのか?』

「うん、ポケモンタワーで眠ってるポケモンを供養したいんだ」

その供養したいポケモンとは勿論、ロケット団に殺されたガラガラの事だ
今までのことがゲームとほぼ完全に一致していることを考えたら、きっとガラガラも誰かが成仏させてくれるのを待っている筈

腕が限界を迎えて落ちる様に着地する

PCの前、ギリギリだったなとか思いながらも腰のボールホルダーから全員を出した
前はこの街をあんなスルー(さ迷うポケモンの魂が云々)の仕方をしたというのに砂塵も月光も落ち着いていた

「行くか」


タワーに入ってすぐ、優木はまたも頭を押さえていた

原因不明の頭痛と共にタチサレという声が聞こえる

「まだ入ったばっかりなのにな…」

声は少し遠い様に感じられ、頭痛もそこまで酷くはない
恐らく近付くにつれて酷くなるだろう

砂塵『大丈夫か?主』

仲間達の心配そうな顔が此方に向けられている

「大丈夫、今は」

飛由『あんまり強がるなよ?』

曖昧な返事だったが、念押しされるだけだった
言ってもどうせ聞かないと判っているんだろう

焔駆『そうそう、心配するからね
主にすいが』


翡翠の顔を見ると、しかめっ面でこちらを見上げていて、本当に焔駆の言う通りだと思った

朝日『前から思っていたのですが…
マスターは他の人とはどうしてそんなに違うのでしょうか?』


朝日が突然そんなことを言い出す
一体何の話だろうか
ポケモンの言葉が解る云々だけではないのだろうか
何にせよ他の人と違う理由なんて一つしか浮かばないが、こんな所で話せる様なことではない

「うーん…ここで話せることじゃないし」

翡翠『優木、何か隠し事してるの?』

「えっと…隠したくて隠してる訳じゃないよ
自分でもよく判ってないし」

頭痛に耐えながらもそう返事を返し、階段を上っていく

月光『生まれた時からそうだったのか?』

「そうだな…そうとも言えるし…そうじゃないかもしれないし…」

歯切れの悪い言葉しか返せない優木
仲間達はただ首を傾げた

「まあ…話せる時が来たら話すよ」

浮かべた表情は苦笑いの様な、困った顔の様な少し複雑な表情をしていた



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