虹の旅路

□18,脱出
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僕は……死んだ……のか…?


まだ……皆を助けてないのにな…


ごめん…皆……



《まだ…
まだ終わってないよ、優木……》


誰……?


まだ……終わってない……?


そうだ……皆を……助けるまでは


死んでも死にきれない


ーーーーー

ーーー






「っ…!」


背中に感じた激痛に目を覚ます
血液不足か、目も焦点が合わない

再び闇に飲み込まれそうな意識を必死に繋ぎ止める

場所はあの牢屋だった
ペンキの臭いは少し薄まっている様だが刺激臭が優木の意識を繋ぎ止める手伝いをしていた

うつ伏せに寝かせられていて呼吸が苦しい
心臓の鼓動に合わせて激痛は絶え間無くしている
それでも、意識は何度も闇へ誘われて、気を抜いたら落ちてしまいそうだった

このままだと自分は長くないだろうな

目覚められたこと自体が奇跡の様だ

少しでも多くの酸素を取り込もうと、肩で息をしつつ腕に力を込め、起き上がろうと試みる

少し力を入れただけで更なる激痛に襲われる
それを何とか耐え抜き、お粗末なベッドに座った

ふと、人がいる気配を感じて見る

そこには確かに誰かが立っていた
辛うじて意識を繋ぎ止めている今の優木には霞んで見えて、少し判りづらい

「…お前…起きたのか」

起こした身体でじっとそっちを見る

服の色は青、ロケット団じゃない

焦点が合わない為に表情は伺えないが声色は何だか悲しそうだった

「君は…?何を…」

今にもまたベッドに倒れてしまいそうな身体

揺れる視界

「…お前に助けられたズバットだ
今ここから出してやる」

鍵が開く音がした

ズバットは見張りをしていた、こんな状況になってもまた見張りを任されたのだろう
しかし、二度も優木に逃げられたとなればきっと……

「そんなこと……したらお前……」

殺されてしまうかもしれない……


ズバットは黙って首を振った

「俺のことはいい、どうせ死んでいた命だ」

「だめだ自分で行く……
だから…お前は……戻れ」

出来るだけ真剣な目で、焦点も合わないのにズバットを見詰める

ズバットはゆっくり牢屋の中へ入り、優木に近寄る

「……判った
仲間のいるところへの道だけ教える、聞いてくれ」

ズバットは優木の肩を支えて立ち上がるのを手伝いながら、丁寧に道を教えてくれた

「今ロケット団は誰もいない
集会があって、皆それに参加してる
戻ってくるまで後40分くらいある
その間に脱出しろ」

「あり…がとう……
ズバット……」

荷物も持たされて牢屋を出るまで一緒に歩く

「これで脱出出来なければもう……お前の命はない…
あいつらはお前にちゃんとした措置を取っていない、そもそもここの設備ではちゃんと治せないらしいが…
後5日が限界だと言っていた
そしてそれから既に3日が経っている」

3日も寝ていたらしいことが判る
本当に目覚められたことが奇跡の様だ

「今日の集会が終わったらお前は実験に使われることになってる
これが最後のチャンスなんだ」

「そっ…か……成る程……な」

そんなことを言われても優木は冷静だった
ただ血液不足で頭が働いていないだけかもしれないが
何であれ今は、仲間を助けることだけを考えて前へ進む

「後……良かったら
名前を聞かせてくれないか……?」

照れ臭そうに、ズバットに名前を聞かれ、優木は驚きながらも出来る限りの笑顔で答えた

「僕は……優木
……優木だ」

「優木…か……
いい名前だ
生きろ、優木」

扉を開けて、ズバットに見送られる

たった一人で壁伝いに必死に歩く

酷い傷を負った身体を引き摺って

仲間達を助ける為に


どれだけ歩いただろう

実際には10分と歩いていないが、優木にはとてつもなく長い道のりに感じられた

血液不足から生じる寒気や目眩

ふらつく足元

そして背中の痛み

それら全てと戦いながら歩く道のり



漸く教えられた部屋の扉に着く

それを開けると、力尽きた様に倒れこんだ

「うぁっ…!」

翡翠『優木!?』

激しい痛み、斬られた時と同じ熱も感じた
呼吸が一瞬出来なくなる

飛由『優木!大丈夫か!?』

心配する仲間達の声が聞こえる

痛みと熱、目眩等と戦い、何とか身体を起こして壁に掛けてある鍵をひっ掴み翡翠達に向き直る

「今……出してあげるから…」

鍵を使って翡翠達を解放すると同時に力尽きて倒れこむ
そしてそのまま動けなくなった

一斉に檻から出て駆け寄ってくる仲間達

何度も名前を呼ばれたが、呼吸するので精一杯で返事は出来なかった




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