虹の旅路

□17,護りたい
1ページ/2ページ


「皆…翡翠を連れて逃げてくれ…」

優木は背中を向けていて判らないが、皆の顔が驚愕に染まる

飛由『なんで…なんで最後まで戦おうとしねぇんだ!
俺達はまだ負けちゃいねぇぞ!』


飛由が叫ぶ
主人を置いて敵前逃亡等、誰が望むだろう
少なくとも優木の仲間にはいない

砂塵『主!
おれ達そんなに頼りない!?』


「…ごめん…でも…こいつは…」

それでも優木は、皆を庇う様に立ち続けた
ミュウツーの強さは、映画を見てよく知っていた
攻撃すればバリアーに防がれ、強いエスパーの力には抗うことも出来ず捕まってしまう

飛由『俺はお前を護るって言ってんだろうがよ…!
お前だけが犠牲になる何てそんなの誰が聞くか!』


そんなことなど知りもしない飛由は、両手を広げて立つ優木よりも前に飛び出していく
その姿は後ろからでも判る程本気で怒っていた
こうなってしまっては、もう優木は何も言えない

砂塵『おれだって…主を護る!
逃げない!』


焔駆『ワタシも戦うよ、ゆきちゃん』

そんな飛由を筆頭に、皆優木の前に出てきてしまう

「皆…」

イーブイ兄妹も優木の隣に立って頷きあう
その様子を見ていたサカキはただただ鬱陶しそうにミュウツーに命令した

「さっさと潰せ」

その声に、ミュウツーは早速飛由、砂塵、焔駆をサイコキネシスで捕らえる

苦しみ出す3匹

「飛由!砂塵!焔駆!」

優木は自分が付けた大切な名前を叫ぶ
始まってしまった
きっと敵わない戦いが

『マスター!』

イーブイ兄妹が優木を呼ぶ
指示を仰ぐ真剣な眼差しに、優木は冷静さを僅かながらに取り戻した
とにもかくにも、こうなったら戦う他ない
このまま仲間がやられるところをみすみす見ている訳にはいかない

「ブイ、イブ、シャドーボール!」

『『了解!』』

素早く飛び上がって息ぴったりのシャドーボールが放たれる
ほぼ同時に命中したシャドーボールにミュウツーは仰け反る
3匹はそれでサイコキネシスから解放された

バリアーで防がれるかとも思ったが、流石にサイコキネシスと同時発動は出来ない様だ

皆がサイコキネシスから解放されると、直ぐ様飛由がたった一匹でミュウツーに向かって飛んでいく

飛由『うおおおおらあ!』

「一人で突っ走るな飛由!」

砂塵『主!おれも!』

指示を仰ぐ砂塵
一人突っ走って行った飛由のこともあって本格的に戦う覚悟を決めるしかないと、優木は悟った

相手は戦う為に生まれた強力なポケモン、ミュウツー
バトルのルールとしては些か反則だが皆で掛からなければ今の優木達に勝ち目等全くないに等しい

「砂塵はミュウツーの視界に入らない様に気を付けて回り込め
シザークロスだ」

砂塵が了解と言って走り出すのを見送ってから、焔駆に向き直る

「焔駆…」

焔駆『ゆきちゃん、指示お願い』

少し辛そうな顔を向けて、しかし焔駆は笑った
その辛そうな顔は、優木が自分を犠牲にしようとしたが故だと、理解する

優しい子だ

まだ、ろくに接したこともないのに

「…ごめんね…
飛由の援護を頼むよ」

頬を撫でて指示を出すと、焔駆は少し困った顔で優木を見てからミュウツーに向かって走り出した

『マスター、私達は?』

「誰かがサイコキネシスに捕まったらシャドーボールで助けるんだ」

『了解』

ミュウツーはバリアーで皆からの攻撃を簡単にガードしていた

何度攻めてもバリアーに阻まれて敵わない

そして

《お前は誰だ》

「!?」

頭の中に直接響く声

身動きが取れなくなる

どうやらサイコキネシスに捕まってしまった様だ

ミュウツーは何故か、ポケモンではなく優木に直接技を掛けてきたのだ

「ぐぅ…あ…!」

身体が宙に浮く

強い力で身体の至る所を強く締め付けられる感覚

『マスター!?』

驚き、心配する声が響く

攻撃していたメンバーも驚き手を止めてしまっていた

優木は飛ばされて壁に再び叩きつけられる

「がはっ!」

強かに打ち付けられてから解放され、力なくうつ伏せに倒れた

イーブイ兄妹が駆け寄ってくる
何も言えず、ただ心配するなとばかりにイブの頭を撫でることしか出来なかった

《お前は誰だ
何故ここにいる》

何故僕のことを聞いてくるんだ

《お前は人間か…?
それとも…》

飛由達の攻撃はそのタイミングで再開され、ミュウツーの言葉の意味も解らないままだった

しかしそれも長くは続かない

仲間達は次々とサイコキネシスに捕まり、優木の傍に飛ばされて倒れる

ついにはイーブイ兄妹だけが立っていた

ミュウツーは兄妹には目もくれず再び優木にサイコキネシスを掛ける

倒れたままだった身体を無理矢理起こされて、強い締め付けに声もあげれずただ苦しむ

『やめろぉおお!!』

シャドーボールがミュウツーに当てられ、サイコキネシスから解放される

しかし、限界を向かえ、意識が深い闇へと堕ちていくのを感じた

『もっと…!』

『もっと強く…!』

『『マスターを護れるくらい強く…!!』』


太陽は沈み、闇の時間が始まろうとしていた

優木は消え行く意識の中、紫の体毛に包まれて輝くポケモンと、漆黒の黒に所々仄かに黄色く輝くポケモンを見た








,
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ