虹の旅路

□16,未来を賭けた闘い
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ロケット団員が走り去って入れるようになった扉
この奥に、ボスであるサカキがいるはず

優木はブイとイブを見て少し躊躇する

仲間達を危険に晒してしまうことが、申し訳無い
だが、だからこそ全力で護る

強く決意を堅め、扉を開いた


「よくきたな少年
部下から話しは聞いている
強いらしいな」

部屋に入ると、驚くでもなく足を組んで座るその人がいた
ロケット団のボス、サカキだ
アニメやゲームとは違う
今本当に、ここに実在している
恐くない筈がない

しかし、優木はここで逃げる訳にはいかなかった
後ろにはブイとイブ、翡翠だっている

逃げることも隠れることも出来ない

「大した根性だ
私を前にして逃げずにいられるとはな」

「仲間の前で逃げ出す様な愚か者にはなりたくないからね」

毅然とした態度で言い切る
そういう決意をしてこの部屋に入ったのだ、己を犠牲にしてでも仲間を見捨てる様な真似をするつもりは微塵もない

「仲間か、お前はポケモンを人と同等に扱っているのか
いいか、ポケモンは人以下だ
人の指示がなければまともに戦うことも出来ない能無しだ」

「違う
ポケモンと人は助け合うことでお互いに出来ないことをカバーしあってるんだ
人が知恵を、ポケモンが力を発揮して一つのことを効率よく遂行する
きってもきれないパートナーだ」

恐怖なんて最初からなかった様にしっかりと言葉を紡ぐ
ブイとイブも何だか誇らしげに優木に寄り添った
サカキは少しの沈黙の後、さも残念そうに言った

「…お前とは解り合えない様だ
残念だ、我がロケット団に入れば幹部にだってなれるだろうに」

サカキからしたら、幹部よりもレベルの高い即戦力と言ったところなのだろう
正面から入ってここまでたどり着いたのだ、戦闘力は申し分ないことは確か
しかし優木にとってそれは、始めから有り得なかったこと
サカキと優木の道が交わる事など、ロケット団としてサカキが活動している限り有り得ないのだ

「そんな地位なんて要らないな
僕は今の仲間さえ居ればそれだけで満足だ」

「ならば消えるがいい
その仲間と共に」

サカキが放り投げたボールが放物線を描きながら落下する

弾ける様な音と共に出てきたのは覇気のないニドキングだった

『こんなガキ相手になに考えてやがる』

ニドキングは優木を見下してそう言う
サカキとの言い合いで気が立っていた優木は、その発言にもつい苛立ちを隠さず声にしてしまった

「悪かったなガキで」

不味いと思いつつも、自らは表情には出さない様に努める
しかし幾らそう努めたところで、当のニドキングが驚いた顔で優木を凝視しているのだから誤魔化しようがなかった

『マスター、この人にバレるのは…』

「フフ…フッフハハハハハハ!」

高笑いするサカキ
優木はポケモンの言葉が解ることがバレたのを悟った

「驚いたな
まさかポケモンの言葉が解る人間がいたとは」

「…そうとは言ってないぞ」

「お前とポケモンの顔を見れば判る
成る程、ポケモンを同等何ぞに扱う訳だ」

弁解の余地はなかった
サカキはクツクツと笑い、優木に好奇の眼差しを向ける
それは思わず戦慄するくらいのおぞましい目だった

「今はそんなことどうでもいい」

『マスター!?』

翡翠『優木!?』

開き直った優木に皆が驚く
優木はそれを気にも止めず言葉を続ける

「僕が勝ったらロケット団を解散してもらう」

強くサカキを睨み付けるその手には、一つのモンスターボール

「…いいだろう
ただし私が勝ったら、お前とお前のポケモンは好きに使わせてもらう」

ニヤリ、顔を歪ませてさも愉快そうにサカキは言った
その表情は人を不安にさせる

まるで負けない確信があるみたいだ

『気を付けろよマスター、何してくるか判らないぞ』

「僕だって負けられない
皆をあいつの好きにはさせない」

持っていたボールを優しく擦り、優木はサカキを睨んだ

「早く出せ、少年」

「…頼む、飛由」

持っていたボールを宙に放る
赤い光に包まれて、飛由は直ぐに飛び出した

飛由『おいこら、もっと早く出しやがれ馬鹿優木』

ニドキングと対峙しても飛由はいつもの飛由だった
その声に緊張感を感じられない

「始めるか、未来を賭けた闘いを」

いとも楽しそうに、サカキは言った
不気味な威圧感だけが漂っている

「気を付けろよ飛由」

飛由『ケッ、判ってらぁ』

優木の言葉の後、途端に真剣な表情になる飛由
場は勿論弁えている
負けられない戦いだということも

「ニドキング、十万ボルト」

ニドキングから電流が発生、いきなり弱点を突く攻撃が飛由目掛けて放たれる

「破壊光線!」

それを破壊光線で迎え撃つ

小規模の爆発が発生、両者は各々のトレーナーの近くまで退避する

「ニドキング、ドラゴンテールだ」

「飛由、高く飛べ!」

ニドキングのドラゴンテールが届く前に素早く高く飛ぶと、飛由はニヤリと笑う
次の指示が予測出来るからだ
そして優木も、飛由が思った通りの技を声に出す

「ドリル嘴!」

飛由『待ってました』

構えの様に両翼をクロス、高速で回転しながらニドキングに向かって飛ぶ

「冷凍ビームで迎え撃て」

冷凍ビームが発射される
しかし飛由は技を発動したままにそれを絶妙に避けて、ニドキングの腹に一撃を与えた

『ぐぅっ…』

飛由は再び上昇
ニドキングは恨めしそうにそれを見上げた

「ストーンエッジ」

冷静に出された指示を聞いてニドキングが鋭く尖った岩を飛ばす
空中の飛由目掛けて放たれたそれは、広範囲に広がり、避けられることを前提にされているのが判る

「高速移動!」

瞬時に高速移動でその岩をかわしていく
サカキはニヤリと口許に気味の悪い笑みを浮かべ、ニドキングに更なる指示を出す

「雷だ」

強い電気が飛由を襲う
ストーンエッジを避ける為に動いた飛由にその雷を避ける暇はなかった
そう、始めからそれを狙っていたのだ

飛由『ぐぅあっ!』

「飛由!」

落ちてきた飛由を受け止めようと両手を広げる
しかし飛由は、優木の腕に収まることなく直前で体勢を立て直した

飛由『馬鹿野郎…!
俺はまだ負けちゃいねえ!』


いつも以上に鋭く睨み付けられる
それに少しの恐怖すら感じ、密かに身震いする

「ほお、あれを耐えるか」

飛由『負けてたまるかよ…
俺はこいつを、優木を護るって決めたんだからよお!』


言葉が解らずとも意味が何となく解ったのだろう
サカキは不機嫌な顔をしていた

「飛由…」

飛由『…早く指示くれ、滅茶苦茶でもいい
勝てば帳消しだ』


「……判った」

まだ苦しそうな飛由に心を痛める
しかし負ける訳にはいかない
優木は一度目を閉じ、深呼吸した
蒼い瞳が開かれる
バトルはまだ始まったばかりだ

「本当に惜しいな、それだけの力を持ちながら解り合えないとは
ニドキング、メガホーン」

『…ゥオオオオ!』

ニドキングは雄叫びをあげ、頭の角にエネルギーを集める
そのエネルギーが一つの大きな角となって、先程のダメージで低空飛行中の飛由に向かって突進していく

「飛べるか?飛由」

飛由『ケッ…、俺を誰だと思ってやがる』

屋内の狭い空を飛び上がる
ニドキングは構わず片足で地面を蹴り、飛び掛かった

「つばめ返し!」

直ぐ様つばめ返しのモーションに入り角をかわす
そのまま腹部につばめ返しを叩き込んだ

『ぐうっ!?』

空中で立て直す術を持たないニドキングはそのまま地面へ真っ逆さまに帰っていった
強く背中を打ち付け、床にヒビが入る

「ドリル嘴!」

そこをドリル嘴で畳み掛ける
お得意の連続攻撃だ

「受け止めろ」

サカキの静かな声の後、腹を見せて倒れていたニドキングの腕が動いた
その腕に飛由の嘴は見事に掴まれ、身動きがろくに出来ない状態になってしまった

「飛由!」

「雷パンチ」

ニドキングが飛由を掴んでいる手と反対の腕を引き絞る
その拳には雷が迸り、飛由を狙う
当たれば既に苦しい体力の残りが簡単に持っていかれてしまうだろう

「飛由頼む…!破壊光線!」

嘴を掴まれた状態で唯一効果のありそうな破壊光線を叫ぶ
飛由の瞳が見開かれ、力を結集させていく

飛由『…ゥオオウ…!』

雷パンチが届く前に飛由の嘴に凄まじい破壊のエネルギーが集まっていく

『ぬう…!?』

その圧力と熱量に堪らず離れる手

その瞬間飛由の嘴が開き、翼でしっかりとバランスを取ると、破壊光線はニドキングに向けて放たれた

砂煙が広がる

ニドキングの姿が見えなくなる
飛由は息を荒くして砂煙を睨んでいた
もしニドキングが倒れておらず、まだ元気そうだったら、勝てる見込みはほぼゼロだろう

果たして砂煙が晴れていく
ニドキングの姿が見えた時、地面に仰向けに倒れていた

「ちっ」

飛由『へっ…俺達の勝ちだな』

苦しそうにしながらも挑戦的な態度を取る飛由を休ませようとボールに手を伸ばす優木だったが、飛由は当たり前の様に優木の後ろに回って羽休めしていた

飛由『ここにいさせろ』

一言そう告げられてしまえば、もう苦笑いして了承するしかなかった

サカキはニドキングに何の感情も向けずにボールに戻すと、次のボールに手を掛ける

「行け、ガルーラ」

ニドキングに代わって出てきたガルーラは不機嫌そうな顔で優木を見ていた
見下す様な視線を浴びせられて当然いい気分等しない

「頼む、焔駆」

焔駆『大変そうな相手ね』

ボールから出てきた焔駆が振り向いて軽く笑った

「…皆緊張感無しだな」

苦笑する優木に焔駆はまた軽く笑って見せた
そんな様子に少なからず自分が救われていることを、優木は自覚しながらもバトルに集中していく


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