虹の旅路

□15,後先考えず
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砂塵『(…え…?)』


砂嵐は止まらない

勢いよくポニータが吹き飛ばされた
咄嗟に優木はポニータを抱き止めようと飛び付く
しかし止めることは出来ず一緒に吹き飛んだ

砂塵は意識を無くしていた

力が制御出来なくなっていた

優木は背中を地面に打ち付け、痛みに震える

ポニータが直ぐに心配そうな顔をして優木を見た

ポニータの暴走は収まったのだ

「ポニータ…良かった戻ってくれて」

『すみません…ワタシのせいでサッちゃんが…』

翡翠『大丈夫優木!?』

気にする必要はないという想いを込めてポニータの頬を撫でる
駆け寄ってきた翡翠達にも精一杯頷いて返事した

飛由『あれはどうなってる』

『サッちゃんは暴走してる…
力が制御出来なくなってしまったの…』

優木は起き上がって砂嵐の発生源を見詰める
痛みは消えた訳ではないが、じっとなんてしていられなかった

「助けなきゃ、砂塵を」

気持ちのままそれだけ、たったそれだけ呟いて優木は駆け出した

砂嵐に突っ込んでいく優木にポケモン達が驚く声が聞こえる

砂嵐は酷く、砂塵の姿は見えない
それでもただ渦の中心に向かって砂の混じる風に逆らって進む

辺りが全くと言っていいほど見えない

「ぐ…!」

大量の濃い砂が、砂塵に近付こうと立ち向かう優木に襲いかかろうとする
それは小さいながらも何も近付けんとする様に強い拒絶に満ちていて、前を見ることすらままならない優木に避ける術も防ぐ術もない

翡翠『優木!』

そんな砂の塊を振り払う様に、葉っぱが優木を護った
翡翠の葉っぱカッターだ

「翡翠…!」

翡翠『一人で無茶しないでよね』

心配する様な笑みを見せる翡翠に、優木もつられる様に苦笑い
強力な砂嵐の中に、人間である自分一人で突っ込むなんて確かにどう考えても無茶だったかもしれない

今度は共に走り出す

砂嵐は恐らく砂塵に近付けば近付く程に威力を増している
実際翡翠と共に駆け出してからあの砂の塊がどんどん向かってくる様になっていた

やがて翡翠だけでは手が回らなくなり

再び凄い量の砂に優木が襲われそうになる
翡翠が一瞬絶望に顔色を染めたが、そこを横切っていく一つのエネルギー光線が、それを静めた

飛由『おいこら、一人で無茶しやがって』

強い砂の中、翼が痛いだろうに飛んで追い掛けてきた飛由の放った破壊光線だった
破壊光線はその一発で正面に少し長めの一本道を作ったが、それも直ぐに消滅してしまう

「飛由…!」

飛由『ま、嫌いじゃねぇよ
お前のそういう所』


不敵な笑みでそう言われれば、優木は苦笑いするしかなかった

前に進むのも難しいくらいの強い突風に煽られながら、必死に前に向かって歩く

飛由もバランスを取るのが難しい様でフラフラとアンバランスな飛行状態だ

いよいよ二匹でも間に合わない

こんなとき、トレーナーの自分は如何に無力か痛感させられる

自分の身くらい、自分で護れればいいのに

優木を護るところまで手が回らなくなった砂が目の前に迫る

『マスター!』

声を掛けたりする暇もなく二匹が息をぴったり揃えて放ったシャドーボールがその砂をかき消す

「ブイ、イブ…!」

『私達を忘れないで下さいよマスター』

『そうそう』

そう言われてしまえば苦笑いするしかない

「ごめん」

軽く謝って前を向く
後は砂塵を助けるだけだ


直ぐに行くよ


(全員)『行こう!』

「うん、行こう」


そして恐らく最後の壁にたどり着く
濃い砂が砂塵に近寄らせない様に行く手を塞ぎ、四匹で力を合わせてもそれが突破出来ない

「くっ…どうすれば…」

『下がって!』

後ろから聞こえた声に振り返る
そこには炎を纏ったポニータがいた

「ポニータ!?」

技は火炎車、驚く優木を避けて砂の壁に勢いよくぶつかった

そこで再び四匹の一斉攻撃が加わり遂に壁に穴が開いた
呆けたりする時間もなく駆け出す

「っ…!砂塵!」

砂嵐の壁を潜り抜けて、荒れ狂う砂塵の身体を見付ける
そして強く抱き締めた

「砂塵!戻ってこい…!」

砂塵『グォオオアアアア!』

発狂する様な声

振り上げられる右腕
その手にはいつもバトルで使っている鋭い爪

翡翠『優木!』

翡翠の叫ぶ声が聞こえる

しかし優木は砂塵を抱き締める腕を緩めることもしなかった


ザッ…!


あ…何…だ…?

…これ…

おれの…手…

あ…かい…?

…血…?

誰の?





砂塵『あ…るじ…?』

砂嵐は嘘の様に止んでいた




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