虹の旅路
□プロローグ
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ざー……
心地良い風が吹き抜ける
葉っぱが擦れる音が耳を擽り、寝惚けた頭で状況がゆっくりと整理されていく
葉っぱが擦れる音……?
「……あ、れ…?…ここはどこ…?」
半ば驚きつつも緩慢な動きで目を覚まし、辺りを見渡す
「……うん、判らん…(汗)」
何処を見渡せど草、草、草…
もういっそ清々しいくらいに草しかない
なぜ、草原何かで眠っていたのだろう
振り返ってみても自分の部屋で寝たという確かな記憶が自分の頭には残っていた
これ以上は考えていても埒が明かない
そう結論付け、どうしたものかと再び見渡す
このまま日が暮れて、夜になったらどうなるだろうか
食料は?何も持っていない
お金すら
考えるのを止め、とりあえず歩いてみることにした
人里があれば何とかなるかもしれない
まあ、自分の命何てどうでもいいのだが、飢え死にはいろいろと辛い
……どれだけ進んだのだろうか
お腹は流石に空っぽだと思うくらいに空いていて、喉も渇いた
半日という時間を飲まず食わずで歩いたのだから当然だが、本人はどれだけ歩いたのかも把握等していない
気が付くと、前方に建物が見え始めた
何処かの村の様な小さな町だ
少し高めの丘の様な場所から見下ろすその町は、小さいながらも落ち着きのあるいい町に見えた
今更ながら、ズボンのポケットに手を突っ込む、ずっと違和感を感じていて、携帯にしては軽いし財布にしても軽いし
入れた覚えもない何かがあることが、少し恐ろしかった
中にはカードのみが入っていた
「……これは……夢?」
優木という名前と、自分と目と髪の色だけが違う様な、白黒写真にすればそっくりな顔写真
そしてIDナンバーに誕生日(これは今日の日付になっている)ーーートレーナーカードというやつだ
「……優……木?」
《そう、君は今日から優木》
突然頭に響いてくる声に驚く、とんでもないことを言う声に、それでもただ疑問を投げ掛ける
「僕に…他の誰かになれってこと?」
《違うよ
君の新しい名前、君は今日から新しい人生を歩むんだ
この世界のいたるところにいるーーポケモン達とーーここを進むともう元には戻れないよ?いい?》
「ポケモン!?」
信じられないことが聞こえたが、ここから見える景色はよくみるとあの、マサラタウンにそっくりだった
優木はそのマサラタウンと思わしき町を眺め、これまで生きてきた全てを捨てる程の決心をした
あまりに突然で普通なら迷うことだが、優木にはそんな迷い等なかった
あの世界で生きる意味等、とうの昔に無くしていたから
「……僕は、優木……か」
next→ 1,マサラタウンで…
最終加筆修正日 2016.05.04