心結び

□20,願い
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サザンドラがここにいるということは、ここが宇宙律の丘で間違いないみたいだ

「地中の奥深くにあるのになぜ丘なのか…?
それは崖に立ち…そして見上げると…
まるで丘の上から満天の星空を眺めている様な気持ちになれる…
それが"宇宙律の丘"という名の由来だそうです」

じゃあ、やっぱりここが…


「さあ、卯月さん…
願いましょう」

私は黙って頷いた


崖の上で、星空の様に輝く不思議な空間に向かって、私は願った


(さよならしたけど…

でも私は…

私はやっぱり…

葉月に会いたい…!)


星の一つが一際強く輝いた


(皆も葉月に会いたいと思っている!)

更にまた、一つが輝く

(やっぱり私達は…
葉月が必要なの!
葉月と一緒にいたいの!

世界が葉月を受け入れてくれて…
葉月がここと人間の世界とを自由に行き来出来る様になれば…!

それが私達の望みなの!
だから…お願い…!

どうか…聞き入れて…!)


卯月の思いが、星空をどんどん輝かせていく

漸く目を開けて、それを見た卯月の瞳が輝いた

しかし、光は少しずつ消えていった…


真っ暗になり、地響きが起こる


「さ、サザンドラ…これは…!?」

「歪みです…
歪みが起き…宇宙のバランスが崩れてるのです…」

「えっ?バランスが…?」

「やはり葉月さんがこの世界にいることは自然の法則に反してしまうようです…
今起きている歪みは世界全体に影響するものではありませんが…
この歪みが起きると宇宙律の丘はなくなり…長い年月を経てまた再生されるそうです
つまりここは…崩れ落ちます…」

「ええっ!?

そ、それじゃ…私や…月乃道の仲間達の願いじゃ…自然の法則は越えられなかったって言うの!?」

「残念ながら…そのようです…
失敗です…
このままだと…私達は…
歪みに飲み込まれてしまいます!
今ここで願いを捨てれば…脱出出来るんじゃないかと!」

願いを捨てれば…

その言葉を聞いた瞬間、卯月はここを動けないと思った

捨てるなんて、出来る訳がない

「まだ間に合います!
とりあえずはここから脱出しましょう!」

「…でも…崩れ落ちたら…
長い間待たないと…ここは再生されないんだよね…?」

「……」

「それまでここには来れないんだよね…?

嫌だっ!!
例え歪みに飲まれてもこの願いは放したくない!!
私はやっぱり…葉月と一緒にいたい!
凄く一緒にいたいのっ!!」

「いい覚悟です!卯月さん!!
そこまでの覚悟こそ…先ずは必要でした!!」

「えっ?」

「そしてもう一つ…
私が考えたもう一つの可能性…
それがあれば…!
実はほんの数日前からですが…
葉月さんの意識を感じてました」

「ええっ!?」



「恐らくは…
葉月さんは今…人間の世界から…
私達を見ています」




えっ…?


ドクン…!




「は、葉月が!?私達を!?」

「…はい…

葉月さん…聞こえてますよね?」


夢の中で、見ていたこと、バレていたのか…


「最後はあなたがどう感じたかなんです
今までずっと私達を見てきましたよね?
宿場町やパラダイスの皆さんが…
葉月さんをどう思っているのか…
葉月さんは見てきましたよね?
それを見てどう感じたかなんです!
そしてどうしたいかなんです!
あなたが強く願えば…!
きっと…!」

僕が…?


僕は…僕は…!


ドクン…!

心臓の音が煩い

身体の芯が熱くなる
一気に意識が覚醒する様に、僕の頭が回り始めた


卯月が不安そうにこっちを見ている



最初は…卯月を傷付けない為に…元の世界へ戻る為に世界を救おうと思った…

だけど…卯月は…


ずっと見ていた、元気のない卯月を…

その度に胸が締め付けられる様な痛みがして、でも目が離せなくて

僕は…僕はどうしたら…


「…葉月聞いてる…?

あのね…、私とした約束覚えてる?」


ずっと一緒にいてほしいという言葉…

「一緒にいたいってだけじゃなくて、私葉月に、もっと楽しいこと、幸せなこと…
教えるって約束した…
私が教えるって…
葉月が一人の方が幸せなら…もう何も言わない
だけど!
違うよね?葉月…

葉月は優しいから、でも不器用で、直ぐに誰かを傷付けてしまうって思い込んでる

葉月、誰かのことばかり気にしないで、自分の気持ちに素直になって…?

葉月の気持ちを聞かせて?」


《…卯月だって人のこと言えないだろうに…》

僕の口から出た最初の言葉は、そんな言葉だった

ここに来る前のことも、見ていたから言えた言葉


「っ…そうだね…!
やっと聞けた…葉月の声…」

泣きそうな顔なのに、何故か嬉しそうな卯月の顔
それがまた、僕の心を揺さぶる


何よりも、こんなところからでも、僕の声が届く…それが妙に心に染みた


僕の素直な気持ち…


…許されるのなら…

僕のことを、自然の法則に逆らって覚えていた皆を信じよう

僕だけが悲しい思いをするならそれでいいと思っていた
卯月の中に僕が残らなければ、卯月は傷付くこともないなんて思っていた

平和になった世界で、楽しく生きていける、そう…思っていた


だけど…違った

卯月は僕のことを覚えていたし、皆も忘れなかった

そして、こうして再会を望んでこんなにボロボロになっても…歪みに飲み込まれてしまいそうになっても…

卯月は僕との再会を望んで動かなかった


なら、僕は…


《僕は……
僕も……卯月に会いたい…会いたいよ…》


素直になるって…難しいな…

あんなに泣けなかったのに、最近は泣いてばかりいる

今だって…


卯月達を覗く穴に、僕の目から落ちた水滴が吸い込まれた


僕の身体を、光が包み込み、浮遊感が訪れる

眩しくて、目を閉じると
光が消えるのと同時に、酷く懐かしく感じる温もりに包まれた



「っ…葉月…
おかえり…」


卯月だった



「…ただいま…
ただいま、卯月…

ありがとう…」


しっかり抱き締め返し、涙を流しながら、お互い笑った





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